第4章 奪格の格形式
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日本語には名詞しか修飾しない格句と後置詞句がいくつかある。奪格の格形式(あるいは所有格の格形式)「の」の句と、並列詞「と;や;とか;か」の句と、熟語中のたとえば「1週間に一度」中の「に」句などである。一方、すでに学んだように、他の格句「が」句、「を」句、後置詞句、つまり、「に」句、「で」句、「から」句、「へ」句や、文連結詞句(「けれど」句、「が」句)はどれも動詞か形容詞か副詞かしか修飾しない。この章では、奪格の格形式「の」を知ろう。

1)奪格句、「の」句の統語的性質
名詞句(89a)では奪格句「夜の」が名詞「気温」と共起しており、名詞句(89b)では奪格句「日本の」が名詞「首都」と共起しているように、奪格句、「の」句は名詞と共起する。

(89a)    夜の気温(名詞)
    e.g., 'the temperature at night'
(89b)    日本の首都(名詞)
    'the captial of Japan'
「の」句は名詞と共起し、形容詞と共起しないと仮定することで、文である語列(90b)に対して語列(90a)が非文であることを説明できる。
(90a)    *こどもは 夜のこわいです。
    'Children are afraid of night.'
(90b)    こどもは 夜がこわいです。
    'Children are afraid of night.'
語列(90a)では、奪格句「夜の」が、形容詞「こわい」か、あるいは、動詞句「こわいです」しか修飾できず、名詞を修飾できないから、非文である。文(91a)と語列(91b)についても、奪格句「スウェーデン人の」が名詞「カラオケ屋」と共起していると仮定することで、語列(91a)が文であり、語列(91b)が非文であることを説明できる。
(91a)スウェーデン人の騒がしく、国歌を歌ったカラオケ屋(名詞)
(91b)*スウェーデン人の騒がしく、国歌を歌った。
文(91a)が真であれば、歌ったのがスウェーデン人であることから、(91a)では奪格句「スウェーデン人の」は「歌った」という動詞と共起しているかのように見えるが、これは事実ではない。なぜなら、語列(91b)、つまり、文(91a)の主要辞名詞を削除したものは非文であるからかである。つまり、(91a)では、形式と意味の不一致があり、「スウェーデン人の」は、「カラオケ屋」と共起しながら、意味においては、それが修飾する名詞を修飾する節の述語の主語を記述している。

2)「NOUNのNOUN」は名詞である
「の」句とそれが修飾する名詞は連結して名詞句であるから、たとえば、「NOUNのNOUNのNOUN」のパターンを持つ名詞は、意味が曖昧である。たとえば、名詞句(92)は、意味が曖昧な句である。

(92)    若い社長の子どもの秘書
名詞句(92)には、何が若いか、社長の何かで意味が異なり、構造上の違いによる解釈が5つある。次の(93a)と(93b)とでは、社長が若いという意味を持つ構造の名詞である。
(93a)若い社長の子どもの秘書

若い社長の          子どもの秘書

若い社長の          子どもの        秘書

若い社長の          子ども      の

若い社長      の    

若い      社長

(93b)若い社長の子どもの秘書

若い社長の子どもの      秘書

若い社長の子ども      の

若い社長の      子ども

若い社長      の

若い      社長

すぐ上の構造を持つ名詞句「若い社長の子どもの秘書」は、「社長の」の修飾の仕方によってふたつは異なる。名詞句(93a)では、「社長の」は「秘書」を修飾しており、名詞句(93b)では、「社長の」は「子ども」を修飾している。なお、「の」の意味において後述されるように、「社長の秘書」や「社長の子ども」には意味において2通りの解釈がある。前者には、「社長のお手伝いをする秘書」と「社長である秘書」、後者には、「社長が親である子ども」と「社長である子ども」である。
    次の(94)では、子どもが若いという意味を持つ構造の名詞である。
(94)若い社長の子どもの秘書

若い社長の子どもの秘書

若い社長の子どもの            秘書

若い社長の子ども          の

若い社長の子ども

若い            社長の子ども  

               社長の    子ども

               社長    の

次の(95a)の構造を持つ名詞句「若い社長の子どもの秘書」と(95b)の構造を持つ名詞句「若い社長の子どもの秘書」とでは、秘書が若いという意味を持つ構造の名詞である。
(95a)若い社長の子どもの秘書

若い    社長の子どもの秘書

       社長の子どもの    秘書

       社長の子どもの

       社長の子ども    の

       社長の    子ども

       社長  の

(95b)若い社長の子どもの秘書

若い    社長の子どもの秘書

       社長の       子どもの秘書

       社長   の    子どもの 秘書

                   子ども    の

名詞句(93a)と(93b)と同様に、「社長の」の修飾の仕方によって、(95a)と(95b)とは異なる。名詞句(95b)では、「社長の」は「秘書」を修飾しており、名詞句(95a)では、「社長の」は「子ども」を修飾している。なお、先述したように、「社長の秘書」や「社長の子ども」には、それぞれ意味において2通りの解釈がある。前者には、「社長のお手伝いをする秘書」と「社長である秘書」、後者には、「社長が親である子ども」と「社長である子ども」である。筆者の日本語教授の経験でも、中級・上級の日本語の新聞や本などのオーセンティックな読み教材において、日本語学習者にとっても解釈が難しい「NOUNのNOUNのNOUNの・・・NOUN」のパターンを持つ名詞句がよく出てくる。

3)奪格の格形式「の」の統語的性質
名詞句あるいは文(89a)ー(92)のように、「の」は、たとえば、名詞を取ることができる、つまり、「の」が後ろに付くことができる。さらに、奪格の格形式「の」は副詞や後置詞も取る、つまり、副詞や後置詞の後ろに付くこともできると考えることで、語列(96d)が文であることに対して、(96a)が文法的に正しい名詞であり、(96b)と(96c)が文法的に正しい名詞でない事実を説明できる。

(96a)ウィンブルドンでのマッケンローのボルグとのたたかい(名詞)
    'the match of McKneroe against Borg in Wimbledon'
(96b)*ウィンブルドンでマッケンローのボルグとのたたかい(名詞)
(96c)*ウィンブルドンでのマッケンローのボルグとたたかい(名詞)
(96d)ウィンブルドンでマッケンローがボルグとたたかう。
このパターンの名詞句の意味は後で解説する。

4)「の」句の意味上の性質:「名詞句+の+名詞」の場合
以下のセクションでは、「の」の意味論に触れる。「の」が後ろに付いて名詞は、後続するものの何を意味において特定するかは以下の通りである。

(97)「の」句の後ろで、かつ、修飾される名詞の前に、その修飾される名詞をさらに修飾する節(関係節、同格節など)がある場合は、「の」が後ろについた名詞は、その節の述語の主語を特定することができる。
たとえば、この分析は、(98b)(=(91b))に対した(98a)(=(91a))を説明する。
(98a)スウェーデン人の騒がしく国歌を歌ったカラオケ屋
(98b)スウェーデン人が騒がしく国歌を歌ったカラオケ屋


先述したように、(98a)では、「スウェーデン人の」後ろで、修飾される名詞「カラオケ屋」の前に、その修飾される名詞をさらに修飾する節「騒がしく国歌を歌った」があるので、「の」が後ろについた名詞「スウェーデン」は、その節の述語「歌った」の主語を特定することができる。
    時間がある人はさらに「スウェーデン人の騒がしい国歌の歌い方」といった表現における「の」の働きを考えて欲しい。複合名詞、「動詞[現在分詞形]+方」では、「の」が後ろについた名詞がその複合名詞を修飾していれば、それは、その動詞の主語か、あるいは、目的語を特定する。
    「の」句の後ろで、かつ、修飾される名詞の前に、その修飾される名詞をさらに修飾する節がなかったり、あるいは、そのような節があっても、その述語の主語を特定しない場合は、「の」が後ろについた名詞は、修飾される名詞の意味的な性質により、どのようにその修飾される名詞を特定するかが、以下のようにして、決まる。

(99a)もし、修飾する名詞が出来事を記述するのであれば、「の」が後ろについた名詞は、その述語の主語か、あるいは、目的語かを記述する。
(99b)もし、修飾する名詞が出来事ではなく個体を記述するのであれば、「の」が後ろについた名詞は、その個体の所有者か、あるいは、その個体自体を記述する。「の」が後ろについた名詞が、修飾される名詞の記述する個体そのものを特定する場合、「の」の意味は「である」と置き換えた意味とほとんど同じである。
この分析は、以下のように、(100a)ー(102b)を説明する。
(100a)    たけしさんの
 e.g., 'Takeshi's mother'
(100b)    たけしさんの
 e.g., 'Takeshi's car'
(101)    赤ちゃんの
 e.g., 'a bear that is a baby,' 'the baby's bear'
(102a)    都市国家ローマのその都市の破壊
 e.g., 'Rome's destruction of the city,'
(102b)    都市国家ローマがその都市を破壊する。
 'Rome will destroy the city.'
名詞句(102a)では、「の」句が修飾する名詞が出来事を記述しているので、「の」が後ろについた名詞(この例の場合、「都市国家」や「その都市」)は、その出来事(この例の場合、「破壊」)の主語か、目的語を特定する。名詞句(100a)、(100b)、(101)のように、「の」句が修飾する名詞が出来事でない個体を記述すれば、「の」が後ろについた名詞は、修飾される名詞の記述する個体の所有者か、あるいは、その個体そのものを特定する。なお、ここで、名詞句(100a)が「たけしさんである母」と同値と解釈されなかったり、名詞句(100b)が「たけしさんである車」と同地と解釈されなかったりするのは、ナンセンスな意味となり、構造上可能なそれらの意味が排除されている。

5)「の」句の意味上の性質:「後置詞句+の+名詞」の場合
既に学んだように、後置詞句は動詞を修飾し、かつ、動詞が記述する出来事の起こる場所、起点などを記述する。「後置詞句+の」が、修飾する名詞の何を特定するかは、以下のように、その後置詞句によって決まる。
 

(103)「[後置詞句]の [名詞]」において、もし、修飾される名詞が出来事を記述するのであれば、この後置詞句は、後置詞句が動詞を修飾する場合の意味の記述と同じように、その名詞が記述する出来事の意味(たとえば、場所、起点など)を記述する。
この分析によって、(104a)と(105a)を説明する。たとえば、(104a)では、「ウィンブルドンでの」は「たたかい」を修飾しているが、後置詞「で」によって、「ウィンブルドン」は「たたかい」が記述する出来事の起こる場所を特定している。
(104a) ウィンブルドンでのマッケンローのボルグとのたたかい(名詞)
(104b) ウィンブルドンでマッケンローがボルグとたたかう。
(105a) 大阪からの出発 (名詞)
(105b) 大阪から出発する。
分析(103)にさらに次の分析が加わる。
(106)「[後置詞句]の [名詞]」において、もし、修飾される名詞が出来事を記述しないのであれば、「の」が取る後置詞句は、文脈において関連性のある出来事の意味(たとえば、場所、起点など)を記述し、修飾される名詞はその出来事の述語の主語かあるいは目的語などを記述する。
この分析によって、名詞句(107a)や(108a)を説明する。
(107a) ウィンブルドンでの朝ごはん
(107b) ウィンブルドンで食べた朝ごはん
(107c) ウィンブルドンで作った朝ごはん
(108a) 大阪からの新幹線
(108b) 大阪から来た新幹線
(108c) 大阪から輸送された新幹線
たとえば、名詞句(107a)「ウィンブルドンでの朝ごはん」は、文脈でいろいろなところで食べた朝ごはんのことを話しているのであれば、「の」の付いた後置詞「ウィンブルドンで」は、この文脈において関連性ある出来事「食べた」の意味、起こる場所を記述し、修飾される名詞「朝ごはん」はその出来事の述語の目的語を記述する。つまり、名詞句(107a)は、このような文脈において、(107b)のように解釈される。文脈によっては、(107a)「ウィンブルドンでの朝ごはん」は(107c)「ウィンブルドンで作った朝ごはん」と解釈されるだろう。

6)文法発展4:奪格
これまでの奪格の格形式「の」のデータを見た。これらのデータを正しく予測するような日本語文法を考えよう。なお、セクション1からセクション5まで出てきた意味に関する分析は、そのまま使う。
    セクション1で議論したように、奪格句(genitive phrase、以下genpと略することもある)は名詞だけを修飾するので、「奪格句 名詞(つまり、genp n)」という語列が、何かの統語上の類(範疇:カテゴリー)に属するという規則が必要である。
    では、「奪格句 名詞」という語列は全体としてどんな統語上の類(カテゴリー)に属するか。たとえば、「後置詞句 文」という語列だと、全体として、「文」の類に属する(s -> pp s)というように、これまでの日本語文法から少しずつ、明らかになってきたように、日本語ではどんな句であっても、主要辞が後ろにある。つまり、句末にあるものがその句の全体としての類を決める(Koga 2000では、分析機unicorn3を使い、このような日本語の原理を探求している。そのほか、日本語文法の分析機への実用化にはGunji1987、Gunji&Hashida1998などがある)。同様にして、「奪格句 名詞」という語列は、全体として「名詞」の類に属し、日本語文法に「n -> genp n」という規則が要る。この規則は(92)「若い社長の子どもの秘書」のような名詞句中の現象を予測する。
    名詞句(89a)「夜の気温」や名詞句(96a)「ウィンブルドンでのマッケンローとボルグとの戦い」のように、日本語の奪格の各形式「の」は、名詞句か、あるいは、後置詞句かを取る、つまり、名詞句か、あるいは、後置詞句かのすぐ後に生起し、そのどちらかと連結して、奪格句をなす。これを規則で表すと、genp -> pp gen、そして、genp -> n genかとなる。
        このようにして、すぐ上に述べたふたつの規則と、奪格の格形式が「の」であるという規則(gen -> no)と、さらに、出来事を記述する名詞や出来事を記述しない名詞や、動詞を増やして、(109)を日本語文法4として提案する。

(109)    日本語文法4
規則1:    s -> pp s
規則2:    s -> nomp vi
規則3:    s -> locp nomp vi
規則4:    s -> nomp vp
規則5:    vp -> locp accp vt
規則6:    vp -> accp vt
規則7:    n -> genp n
規則8:    nomp -> n nom
規則9:    accp -> n acc
規則10:    locp -> n loc
規則11:    genp -> n gen
規則12:    genp -> pp gen
規則13:    pp -> n p
規則14:    nom -> ga
規則15:    acc -> wo
規則16:    loc -> ni
規則17:    gen -> no
規則18:    p -> de
規則19:    p -> kara
規則20:    n -> kodomo
規則21:    n -> ohagi
規則22:    n -> otoko
規則23:    n -> isha
規則24:    n -> gan
規則25:    n -> heya
規則26:    n -> oosaka
規則27:    n -> byouin
規則28:    n -> setujo
規則29:    vi -> hukureru
規則30:    vi -> iru
規則31:    vi -> sirareteiru
規則32:    vt -> taberu
規則33:    vt -> oku
規則34:    vt -> setujosuru
語「切除(せつじょ)する」は、名詞「切除(せつじょ)」に対応する動詞である。
    日本語文法4と奪格句の意味の分析((99a)、(99b)、(103)、(106))とは、以下のように正しい予測をなす。なお、意味の理論の予測をこの章から付け加える。日本語文法4は、語列(110)を(111)のように分析し、その語列が文であると予測する。
(110)男が子どものおはぎを食べる。
'A man eats a child's ohagi.'
(111)
s,4
nomp,8            vp,6
n,22 nom,14  accp,9                                    vt,32
                   n,7                             acc,15
                   genp,11                n,21
                   n,20        gen,17
okoto ga        kodomo    no       ohagi wo    taberu
さらに、奪格句の意味分析より、「[n [gep kodomo no] [n ohagi]]」の意味は、「おはぎ」が出来事を記述しないので、「子ども」は、そのおはぎの所有者か、あるいは、おはぎ自体が記述する個体であるので、この名詞句は、「子どもの持っているおはぎ」か、あるいは、「子どもであるおはぎ」の意味に解釈される。これらの予測は、母語話者の語列に関する文かどうかの判断と、母語話者の名詞句の意味についての判断と矛盾しないので、日本語文法4と奪格句の意味の分析は反証されない。なお、名詞句の「子どもであるおはぎ」の解釈は、「おはぎ」が人の名前だったら、このような意味を持つ。
    日本語文法4と奪格句の意味分析は、語列(112)が文であると予測し、それを(113)のように統語上、分析する。
 
(112)    部屋に癌の男がいる。
'A man with a cancer is in the room.'
(113)
s,3
locp,10           nomp,8                                      vi,30
n,25    loc,16    n,7                            nom,14
                    genp,11            n,22
                    n ,24    gen,17
heya ni            gan     no        otoko    ga            iru
ここで、(110)の名詞句の分析と同様、奪格句の意味分析は、この名詞句「[n [genp gan no] [n otoko]]」が「癌である男」と「癌が持っている男」と解釈されると予測する。この場合は、後者の文脈はあまりあり得ないが、前者の文脈はよくある。このように、日本語文法4と奪格句の意味分析は、予測が母語話者の判断と矛盾しないので、反証されない。
    日本語文法4と奪格句の意味分析は、語列(114)を(115a)と(115b)と二通りに統語上、分析する。前者では、「医者」は「癌」を修飾し、後者では、「医者」は「切除」を修飾する。
(114)    医者の癌の切除が知られている。
'The removal of a cancer in the doctor is known.'
'The doctor's removal of a cancer is known.'
(115a)
s,2
nomp,8                                                                vi,31
n,7                                                        nom,14
genp,11                                   n,28
n,7                            gen,17
genp,11        n,24
n,23    gen,17
isha    no        gan    no            setujo        ga        sirareteiru
(115b)
s,2
nomp,8                                                                    vi,31
n,7                                                           nom,14
genp,11        n,7
n,23    gen,17    gep,11                 n,28
                     n,24    gen,17
isha    no            gan    no                setujo    ga        sirareteiru
奪格句の意味分析は、後者の分析により、「切除」は出来事を記述するので、それを修飾しているふたつの奪格句の名詞「医者」と「癌」は、切除の表す出来事の述語の主語か目的語を記述すると予測し、たとえば、医者が癌を切除するという出来事を「医者の癌の切除」という名詞が記述すると解釈されると予測する。これは母語話者の判断と矛盾しない。奪格句の意味分析は、前者の分析により、「医者の癌」はたとえば、医者の体に持っている癌と解釈され、「切除」は出来事を記述するので、それを修飾しているひとつの奪格句の名詞「癌」は、切除の表す出来事の述語の主語か目的語を記述すると予測し、たとえば、癌を切除するという出来事を「癌の切除、その癌は医者が体に持っている癌である」と解釈されると予測する。これは母語話者の判断と矛盾しない。ふたつの名詞句の解釈は他にも可能であり、読者が自分で確認して欲しい。
    日本語文法4と奪格句の意味分析(103)は、語列(116a)が文であると予測し、後置詞が動詞を修飾している文(116b)と違い、文(116a)では、後置詞句「病院で」が奪格の格形式「の」の働きにより、切除を記述することを正しく予測する。
(116a)    病院での切除が知られている
'The removal at the hospital is known.'
(116b)    病院で切除が知られている。
'The removal is known at the hospital.'
(117)
s,2
nomp,8                                                        vi,31
n,7                                            nom,14
genp,12                    n,28
pp,13        gen,17
n,27    p,18
byouin    de    no            setujo    ga            sirareteiru
    なお、この日本語文法4では関係節を含む文は射程に入っておらず、(98a)(=(91a))「スウェーデン人の騒がしく国歌を歌ったカラオケ屋が知られている」のような文は生成されない。関係節の章でこの分析(意味分析は(97)にある)に触れたい。
    さらに、主格「が」、目的格「を」の意味の分析の予測も検証できるが、ここでも、また、これまでの章でも省略した。