第7章 ”受身”形態

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1)”受身”形態の音韻列
”受身”形態が取る動詞が第6章で提案したような動詞基(Verb Base)であると仮定すると、”受身”形態の動詞基は、/rare/か、これの最初の音韻/r/を取り除いた/are/か、/rare/の頭に/o/を追加した/orare/である。第1番目の/rare/は、(1)の場合のように、/RU/動詞を取る場合の”受身”形態で、第2番目の/are/は、(2)と(3)の場合のように、/U/動詞か不規則動詞/s/かを取る場合の”受身”形態で、第3番目の/orare/は、(4)の場合のように、不規則動詞/k/を取る場合の”受身”形態である。
(1a) 食べる /tabe-ru/ 'He will eat it'
(1b) 食べ /tabe/ '... eating it, ...'
(1c) 食べられる /tabe-rare-ru/ 'It will be eaten or is eaten.'
(2a) 読む /yom-u/
(2b) 読み /yom-i/
(2c) 読まれる /yom-are-ru/
(3a) 調査する /tyousas-u-ru/
(3b) 調査し /tyousas-i/
(3c) 調査される /tyousas-are-ru/
(4a) 来(く)る /k-u-ru/
(4b) 来(き) /k-i/
(4c) 来(こ)られる /k-orare-ru/
「る」が時制「非過去」であることは、前の章で議論した。(なお、rareかareかについては、吉村2000のように、”受身”形態はrareで、取る動詞基が子音で終わる場合は、yom-rareがyom-areであるように、子音+子音の列では後ろの子音が削除されると考えると、より一般的に説明できる。しかし、吉村2000の分析では、「される」には、s-rareがs-areとなると予測され、「来られる」には、k-rareが*k-areとなると予測され、この二つを両方とも正しく予測するにはアドホックな音韻規則が必要となるかもしれない。)

2)”受身”形態の品詞
”受身”形態(たとえば(5a)「食べられる」の「られ」)は、日本語の文法で助動詞と分類されることがあるが、助動詞という分類を認めない文法においては、1)副詞(たとえば(6a))、2)「い」形容詞(たとえば(7a))、3)「な」形容詞(たとえば(8a1)、(8a2))、4)名詞(たとえば(9a1)、(9a2))、5)動詞(たとえば、(10a))のうち、動詞に属すると考えると、以下のように、説明はより簡素になる。
  ”受身”形態の非過去の文の終わりは(5a)のようであり、それが名詞を修飾する場合は、(5b)のように、形態は変わらない。

(5a)    食べられる。
(5b)    食べられるものが ある。
”受身”形態の非過去の文(5a)に対するその否定形は、(5c)のように「る」を削除して、「ない」をつけ、その過去形は、(5d)のように「る」を「た」に換える。
(5c)    食べられない。
(5d)    食べられた。
”受身”形態の動詞を修飾する形態は、(5e)のように「る」を「て」に換えるか、(5f)のように「る」を取って、そのままつなげる。
(5e)    食べられて、よかった。
(5f)    食べられ、よかった。


2.1)”受身”形態が副詞だったら
もし”受身”形態が副詞(たとえば、(6a)のような形態)に属すると仮定したら、副詞「ゆっくり」の語形変化は(6a)から(6f)のようで、たとえば、副詞が、過去であれ、非過去であれ、動詞の様態を表す場合は、(6d)のように、”受身”形態はその形を変えないと予測される。

(6a)    ゆっくり 走る。
(6b)    ゆっくりのものが ある。
(6c)    ゆっくりじゃなく 走る
(6d)    ゆっくり 走った。
(6e)    ゆっくりで、よかった。
(6f)    ゆっくり、よかった。
ところが、これは、間違った予測である。「食べられる」の対応する過去は無変化形の「食べられる」ではなく、「食べられた」であるからだ。この望まない結論は、”受身”形態が副詞(たとえば、(6a)のような形態)に属すると仮定したことによって導かれ、他の暗黙の仮定から導かれたのではないので、”受身”形態は副詞(たとえば、(6a)のような形態)に属するという仮定が成り立たない、つまり、”受身”形態は副詞(たとえば、(6a)のような形態)に属さないということになる。

2.2)”受身”形態が形容詞だったら
もし”受身”形態が「い」形容詞(たとえば、(7a)のような形態)に属すると仮定したら、「い」形容詞「おいしい」の語形変化は(7a)から(7f)のようで、たとえば、「い」形容詞の過去は「い」または最終音韻を「かった」に換えることにより作られるので、”受身”形態「食べられる」の過去は「食べられかった」などと予測される。
(7a)    おいしい
(7b)    おいしいものが ある。
(7c)    おいしくない。
(7d)    おいしかった。
(7e)    おいしくて、よかった。
(7f)    おいしく、よかった。
ところが、これは、間違った予測である。「食べられる」の対応する過去は「食べられかった」などではなく、「食べられた」であるからだ。この望まない結論は、”受身”形態が「い」形容詞(たとえば、(7a)のような形態)に属すると仮定したことによって導かれ、他の暗黙の仮定から導かれたのではないので、”受身”形態は「い」形容詞(たとえば、(7a)のような形態)に属するという仮定が成り立たない、つまり、”受身”形態は「い」形容詞(たとえば、(7a)のような形態)に属さないということになる。

2.3)”受身”形態が「な」形容詞だったら
もし”受身”形態が「な」形容詞(たとえば、(8a1)か(8a2)のような形態)か「名詞」(たとえば、(9a1)か(9a2)のような形態)に属すると仮定したら、「な」形容詞「静かな」の語形変化は(8a1)から(8f)のようであり、名詞「公園」の語形変化は(9a1)から(9f)のようであり、たとえば、「な」形容詞と名詞の動詞の修飾形の「で」を取り除いたら、(8f)と(9f)のように、非文法的な形態になるので、”受身”形態「食べられる」の動詞修飾形の「食べられて」の「て」を取り除いた「食べられ」が非文法的な形態であると予測される。
(8a1)    静かだ。
(8a2)    静かである。
(8b1)    静かなものが ある。
(8b2)    静かであるものが ある。
(8c1)    静かじゃない。
(8c2)    静かでない。
(8c3)    静かではない。
(8d1)    静かだった。
(8d2)    静かであった。
(8e)    静かで、よかった。
(8f)    *静か、よかった。
(9a1)    公園だ。
(9a2)    公園である。
(9b1)    公園のものが ある。
(9b2)    公園であるものが ある。
(9c1)    公園じゃない。
(9c2)    公園でない。
(9c3)    公園ではない。
(9d1)    公園だった。
(9d2)    公園であった。
(9e)    公園で、よかった。
(9f)    *公園、よかった。
ところが、これは、間違った予測である。「食べられる」の対応する動詞修飾形「食べられ」は文法的に正しいからである。この望まない結論は、もし”受身”形態が「な」形容詞(たとえば、(8a1)か(8a2)のような形態)か「名詞」(たとえば、(9a1)か(9a2)のような形態)に属すると仮定したことによって導かれ、他の暗黙の仮定から導かれたのではないので、”受身”形態は「な」形容詞(たとえば、(8a1)か(8a2)のような形態)か「名詞」(たとえば、(9a1)か(9a2)のような形態)に属するという仮定が成り立たない、つまり、「な」形容詞(たとえば、(8a1)か(8a2)のような形態)にも、「名詞」(たとえば、(9a1)か(9a2)のような形態)にも属さないということになる。(8a1)と(8a2)か、(9a1)と(9a2)というように「な」形容詞と名詞の場合は、非過去形が二つあるという点も、”受身”形態「食べられる」と異なる。

2.4)”受身”形態が動詞だったら
もし”受身”形態が動詞(たとえば、(10a)のような形態)に属すると仮定したら、動詞「走る」の語形変化は(10a)から(10f)のようであり、”受身”形態が副詞「ゆっくり」や「い」形容詞「おいしい」や「な」形容詞「静かな」や名詞「公園」であると仮定した場合に予測される語形変化よりも問題が少ない。
(10a)    走る。
(10b)    走るものが ある。
(10c)    走らない。
(10d)    走った。
(10e)    走って、よかった。
(10f)    走り、よかった。
”受身”形態「食べられる」の過去形は「食べられった」と予測される。この”受身”形態の過去は、間違った予測ではあるが、副詞だと仮定した場合の非過去と同一の「食べられる」、「い」形容詞だと仮定した場合の「食べられかった」より、事実の「食べられた」に近い。また、もし”受身”形態が動詞(たとえば、(10a)のような形態)に属すると仮定したら、動詞の修飾形は、「食べられって」と「食べられり」と予測される。これは、「な」形容詞や名詞と仮定した場合に予測される「食べられて」と非文法的となる「*食べられ」より、事実の「食べられて」と文法的な「食べられ」に近い。これらのことから、”受身”形態は、副詞と仮定するより、かつ、「い」形容詞と仮定するより、かつ、「な」形容詞と仮定するより、かつ、名詞と仮定するより、動詞と仮定する方が予測が事実に近い。(なお、古典語を考えたら、「走りて」と「走り」と、予測され、正しい予測となる。)次のセクションで、「走る」とは異なる動詞の形態類に属すると仮定すると、予測は完全となることがわかる。

3)”受身”形態はどの種類の動詞か
2)において”受身”形態が、助動詞という分類を認めない文法において、どの品詞に属するかを議論した。答えは、「動詞」であった。次に、”受身”形態は、以下の議論から、動詞の下位形態類/RU/動詞に属すると考えるといい。

3.1)”受身”形態が/U/動詞だとしたら
”受身”形態の動詞「食べられる」が、「走る」や「帰る」と同じ形態類(いわゆる/U/動詞)に属すると仮定しよう。/U/動詞「帰(かえ)る」の語形変化はすぐ下のようである。

(11a)    猫が帰るということはない。
                'It is not the case that the cat will go back home.'
(11b)    猫が帰らないということはない。
                'It is not the case that the cat will not go back home.'
(11c)    猫が帰って、困った。
                'We got in a trouble since the cat came back home.'
(11d)    猫が帰ります。
                'The cat will go back home [Polite Style].'
(11e)    猫が帰りたがっている。
                'The cat wants to go back home.'
もし”受身”形態「食べられる」が/U/動詞に属すると仮定したら、その語形変化は(12a)-(12e)となり、予測は近いが完全とは言えない。
(12a)    ケーキが猫に食べられるということはない。
                'It is not the case that the cake will be eaten by a cat.'
(12b)    *ケーキが猫に食べられらないということはない。
                'It is not the case that the cake will not be eaten by a cat.'
(12c)    *ケーキが猫に食べられって、困った。
                'We got in a trouble since the cake was eaten by a cat.'
(12d)    *ケーキが猫に食べられリます。
                'The cake will be eaten by a cat [Polite Style].'
(12e)    *ケーキが猫に食べられリたがっている(比ゆ的使用)。
                'The cake wants to be eaten by a cat.'
「帰(かえ)る」に対して「帰(かえ)らない」なので、「る」を「ら」に換えて、「ない」をつけるので、”受身”形態の「食べられる」の否定形は、(12b)「食べられらない」と予測される。「て」形は、「帰(かえ)る」に対して「帰(かえ)って」なので、「る」を「っ」に換えて、「て」をつけるので、”受身”形態の「食べられる」の「て」形は、(12c)「食べられって」と予測される。丁寧形は、「帰(かえ)る」に対して「帰(かえ)ります」なので、「る」を「り」に換えて、「ます」をつけるので、”受身”形態の「食べられる」の丁寧形は、(12d)「食べられります」と予測される。願望形は、「帰(かえ)る」に対して「帰(かえ)りたい」なので、「る」を「り」に換えて、「たい」をつけるので、”受身”形態の「食べられる」の願望形は、(12e)「食べられりたい」と予測される。予測は近いが完全とは言えない。なお、実際に日本語学習者は、これに類似した間違いをよくする。

3.2)”受身”形態が/RU/動詞だとしたら
”受身”形態の動詞「食べられる」が、「走る」や「帰る」と同じ形態類(いわゆる/U/動詞)に属すると仮定しよう。/RU/動詞「食(た)べる」の語形変化はすぐ下のようである。
(13a)    猫がケーキを食べるということはない。
                'It is not the case that the cat will eat the cake.'
(13b)    猫がケーキを食べないということはない。
                'It is not the case that the cat will not eat the cake.'
(13c)    猫がケーキを食べて、困った。
                'We got in a trouble since the cat ate the cake.'
(13d)    猫がケーキを食べます。
                'The cat will eat the cake [Polite Style].'
(13e)    猫がケーキを食べたがっている。
                'The cat wants to eats the cake.'
もし”受身”形態「食べられる」が/RU/動詞に属すると仮定したら、その語形変化は(14a)-(14e)となる。
(14a)    ケーキが猫に食べられるということはない。
                'It is not the case that the cake will be eaten by a cat.'
(14b)    ケーキが猫に食べられないということはない。
                'It is not the case that the cake will not be eaten by a cat.'
(14c)    ケーキが猫に食べられて、困った。
                'We got in a trouble since the cake was eaten by a cat.'
(14d)    ケーキが猫に食べられます。
                'The cake will be eaten by a cat [Polite Style].'
(14e)    ケーキが猫に食べられたがっている(比ゆ的使用)。
                'The cake wants to be eaten by a cat.'
「食(た)べる」に対して「食(た)べない」なので、「る」を取り除いて「ない」をつけるので、”受身”形態の「食べられる」の否定形は、(14b)「食べられない」と予測される。「て」形は、「食(た)べる」に対して「食(た)べて」なので、「る」を取り除いて、「て」をつけるので、”受身”形態の「食べられる」の「て」形は、(14c)「食べられて」と予測される。丁寧形は、「食(た)べる」に対して「食(た)べます」なので、「る」を取り除いて「ます」をつけるので、”受身”形態の「食べられる」の丁寧形は、(14d)「食べられます」と予測される。願望形は、「食(た)べる」に対して「食(た)べたい」なので、「る」を取り除いて「たい」をつけるので、”受身”形態の「食べられる」の願望形は、(14e)「食べられたい」と予測される。これらの予測は正しい。
    以上から、”受身”形態は/U/動詞(たとえば「帰る」)ではなく、/RU/動詞(たとえば「食べる」)と考えると、その語形変化は自動的に導き出される。(さらに、”受身”形態が不規則動詞「する」かあるいは「来る」と同じ類に属するとしたら、それぞれの受身形態はどのようになると予測されるか各自調べよう。)

4)”受身”文の3つの統語・意味パターン
次の(15a)-(21a)のそれぞれの動詞を補語として取る”受身”動詞は、aの文の出来事と直接関連するものに限れば、どのような節のパターン(特定の格句のパターン)を取るかをここで考えよう。

4.1)”受身”動詞の主格名詞と位置格名詞は、”受身”が補語として取っている動詞とどのような文法関係を持つか
たとえば、文(15a)「雨が降る」の動詞「降る」を補語として取っている”受身”動詞「降られる」は、文(15a)に直接関係する節のパターンとして、(15b)「太郎が雨に降られる」がある。

(15a)    雨が 降る
(15b)    太郎が 雨に 降らる。
文(15b)が真であれば、その世界においては、文(15a)も真である。文(15b)で位置格名詞である「雨」は、文(15a)で主格名詞である。文(15b)で「太郎」は主格名詞で、文(15a)の表す出来事には現れていない要素である。
    文(16a)「太郎がおはぎを食べる」の動詞「食べる」を補語として取っている”受身”動詞「食べられる」は、文(16a)に直接関係する節のパターンとしては、(16b)「花子が太郎におはぎを食べられる」と、(16c)「おはぎが太郎に食べられる」とがある。
(16a)    太郎が おはぎを 食べる。
(16b)    花子が 太郎に おはぎを 食べられる。
(16c)    おはぎが 太郎に 食べられる。
文(16b)が真であれば、その世界においては、文(16a)も真である。文(16b)で位置格名詞である「太郎」は、文(16a)で主格名詞である。文(16b)で「花子」は主格名詞で、文(16a)の表す出来事には現れていない要素である。文(16c)が真であれば、その世界においては、文(16a)も真である。文(16c)で位置格名詞である「太郎」は、文(16a)で主格名詞である。文(16c)で主格名詞である「おはぎ」は、文(16a)で目的格名詞である。
    文(17a)「太郎が犬にドッグフードを与える」の動詞「与える」を補語として取っている”受身”動詞「与えられる」は、文(17a)に直接関係する節のパターンとしては、(17b)「花子が太郎に犬にドッグフードを与えられる」と、(17c)「ドッグフードが太郎に犬に与えられる」と、(17d)「犬が太郎にドッグフードを与えられる」とがある。
(17a)    太郎が 犬に ドッグフードを 与える。
(17b)    花子が 太郎に 犬に ドッグフードを 与えられる。
(17c)    ドッグフードが 太郎に 犬に 与えられる。
(17d)    犬が 太郎に ドッグフードを 与えられる。
文(17b)が真であれば、その世界においては、文(17a)も真である。文(17b)で位置格名詞である「太郎」は、文(17a)で主格名詞である。文(17b)で「花子」は主格名詞で、文(17a)の表す出来事には現れていない要素である。文(17c)が真であれば、その世界においては、文(17a)も真である。文(17c)で位置格名詞である「太郎」は、文(17a)で主格名詞である。文(17c)で主格名詞である「ドッグフード」は、文(17a)で目的格名詞である。文(17d)が真であれば、その世界においては、文(17a)も真である。文(17d)で位置格名詞である「太郎」は、文(17a)で主格名詞である。文(17d)で主格名詞である「犬」は、文(17a)で位置格名詞である。

4.2)”受身”形態に「被害」の意味がいつもあるか
”受身”形態が補語として取っている動詞が表す出来事が、”受身”形態の文の主格名詞が表す個体と独立して起こっていれば、「被害」の意味がいつもあり、独立して起こっていなければ、「被害」の意味があってもなくてもよい。
    文(18a)が真であれば、必ず、文(18b)が真である。文(18a)中の主格名詞が表す個体「次郎」とは独立して、”受身”形態が補語として取っている動詞「殴る」が表す出来事が起こっている。
(18a)    次郎が 花子に 太郎を 殴られる。
(18b)    花子が 太郎を 殴る
(18c)    Hanako punches Taro.
(18d)    Hanako punches Taro, and Jiro does not like it.
提案した分析は、文(18a)の「殴られ」の「られ」では「被害」の意味がいつもあると予測する。この予測は正しい。主格名詞の表す個体「次郎」は、この出来事に感情的な関係を持っており、このaの文にはいつも「被害」の意味がある。文(18a)は、(18c)より、(18d)の意味を持つと解釈される。一方、文(19a)が真であれば、必ず、文(19b)が真であるが、文(19a)中の主格名詞が表す個体は、”受身”形態が補語として取っている動詞「殴る」が表す出来事の目的語である。
(19a)    太郎が 花子に 殴られる。
(19b)    花子が 太郎を 殴る。
(19c)    Hanako punches Taro.
(19d)    Hanako punches Taro, and Taro does not like it.
提案した分析は、文(19a)中の「殴られ」の「られ」では「被害」の意味があってもなくてもよいと予測する。この予測は正しい。主格名詞の表す個体「次郎」は、この出来事に対して、感情的な関係を持っておらず、「被害にあっ」ているという意味があってもなくてもよい。文(19a)は、(19d)より、むしろ、(19c)の意味を持つと解釈される。

4.3)「被害」の診断テスト
さらに、”受身”形態の文において、いつも「被害」の意味があるか、それとも、「被害」の意味があってもなくてもよいかは、主格名詞を提題名詞にして、「ことを願った」とした表現を後ろにつけられるかどうかで診断できる。出来事と独立している(その主語や目的語や間接目的語でない)個体は、その出来事が起こるように願うことができないからだ。
    文(18a)のような「被害」の意味がある場合は、主格名詞を提題名詞にして、「ことを願った」とした表現を後ろにつけると、(20a)のように、変に(出来事に直接、関わらない人が関わるかのように矛盾のように)聞こえる。
(20)    ?次郎は 花子に 太郎を殴られることを 願った。
一方、たとえば、文(19a)のような「被害」の意味がない場合は、主格名詞を提題名詞にして、「ことを願った」とした表現を後ろにつけると、(21)のように、変には聞こえない。
(21)    太郎は 花子に 殴られることを 願った。
    受身の文(15b)は、(22)のように、「被害」の意味を持つ。
(22)    ?太郎は 雨に 降られることを願った。
文(16b)は、(23)のように、「被害」の意味を持ち、文(16c)は、(24)のように、「被害」の意味を持たない。
(23)    ?花子は 太郎に おはぎを 食べられることを願った。
(24)    おはぎは 太郎に 食べられることを願った。(比ゆ的用法)
文(17b)は「被害」の意味を持ち、(17c)と(17d)はどちらも「被害」の意味を持たない。
(25)    ?花子は 太郎に 犬に ドッグフードを 与えられることを願った。
(26)    ドッグフードは 太郎に 犬に 与えられることを願った。(比ゆ的用法)
(27)    犬は 太郎に ドッグフードを 与えられることを願った。

    4・1−4・3から、上であげた”受身”動詞の文には3つの統語・意味のパターンがある。
(28)    パターン1:
        (16b)    花子が 太郎に おはぎを 食べられる。
        (17b)    花子が 太郎に 犬に ドッグフードを 与えられる。
このパターンの場合、”受身”動詞の主格句の表すものは、それ以外の部分で表される一つの出来事に対して、間接的な関係を持つので、”受身”動詞の主格句を省いても、主格句以外で表される出来事は、それぞれ、(29)、(30)、(31)のように、描写可能である。
(29)    雨が降る。
(30)    太郎がおはぎを食べる。
(31)    太郎が犬にドッグフードを与える。
(32)    パターン2A:

例:    (16c)    おはぎが 太郎に 食べられる。
          (17c)    ドッグフードが 太郎に 犬に 与えられる。
        (17d) 犬が 太郎に ドッグフードを 与えられる。
このパターンの場合、”受身”動詞の主格句は、”受身”が取っている動詞の目的格句であるか、あるいは、”受身”が取っている目的格句を取る動詞(他動詞)の目的語の位置格句(間接目的語)であるかのように解釈されるので、”受身”動詞の主格句を除いたら、出来事は、それぞれ、(33)、(34)、(35)のように、描写されえず、それが必要である。
(33)    太郎が おはぎを 食べる。
(34)    太郎が 犬に ドッグフードを 与える。
(35)    太郎が 犬に ドッグフードを 与える。
5)”受身”文のもうひとつの統語・意味パターン
ここで、”受身”動詞の取る統語/意味のパターンには、セクション4で述べた2つに加えて、もうひとつある。まず、文(36a)に対応する文(36d)は、パターンIの例であり、この文は新しいパターンにはならない。
(36a)    花子が 太郎の左腕を 洗う。
(36d)    太郎が 花子に 左腕を 洗われる。
文(36d)は、(37)が変に聞こえるように、「被害」の意味をいつも持つ。
(37)    ?太郎は 花子に 左腕を 洗われることを 願った。
太郎が、花子が自分の左腕を洗うという出来事に間接的にしか関わらない。一方、文(38a)に対応する文(38d)は、パターンIの例とはならず、新しいパターンになる。
(38a)    花子が 太郎の鼻を 殴る。
(38d)    太郎が 花子に 鼻を 殴られる。
文(38d)は、文(39)が変に聞こえないように、「被害」の意味を持っても持たなくてもよい。
(39)    太郎は 花子に 鼻を 殴られることを 願った。
    文(36d)「太郎が花子に左腕を洗われる」と文(38d)「太郎が花子に鼻を殴られる」との違いは、以下である:文(36)が真であっても、文(40)が真とならないように、その目的格句の所有者に対して、その動詞によって表された行為がなされたと言うことにはならない。
(40)    花子が太郎を洗う。
一方、文(38d)が真であれば、文(41)が真となるように、その目的格句の所有者に対して、その動詞によって表された行為がなされたと言うことになる。
(41)    花子が太郎を殴る。
つまり、文(38d)は、目的格を二つとり、一方の目的格の名詞句は他方の名詞句の所有者を表すような動詞を受身にした場合と考えられる。
(42)    花子が太郎を鼻を殴る。


この事実と、目的格名詞のひとつがinalienableである(つまり、他の個体から独立した個体として疎外できない)こととは一致する。この新しいパターンは、パターン2Bとして、以下のようにまとめられる。

(44)    パターン2B:
6)日本語言語理論7
日本語言語理論6に、以下に述べるような新しい規則を加えて、日本語言語理論7を作る。「被害」の意味をいつも持つ”受身”形態は、統語規則群と1つの意味規則によって予測される。(41)ー(42c)の規則のように、「被害」の意味をいつも持つ”受身”形態は、それ自身が’(被害など)を被る’(suffer)という意味を持ち、”受身”形態「rare; are; orare」のSUFFERは、他動詞(VTV:Transitive Verb that Takes Verb as its Complement)であると分析される。
(41)    規則71: VTV -> SUFFER
(42a)    規則75: SUFFER -> rare
(42b)    規則76: SUFFER -> are
(42c)    規則77: SUFFER -> orare
さらに、規則20と21は、自動詞(VI)か、あるいは、動詞句(VP)かとVTVが、この順で並べば、動詞句(VP)であるという。
(43a)    規則20: VP -> VP VTV
(43b)    規則21: VP -> VI VTV

つまり、VTVは補語としてVIかVPかを取る。言語理論6の意味規則3cを3c’に代える。

(44)    3c’.    「に」句が、ある特定の受動動詞「借りる」、「受ける」、「聞く」、「教わる」、「習う」、「もらう」、「賜る」、「いただく」、「(r)are/orare」を修飾する場合、「に」名詞句は、目的語が記述する個体が、「が」名詞句が記述する個体の方に動くその移動の起点か、あるいは、目的語が記述する動作が、「が」名詞句が記述する個体の方に起こるその動作の主語を記述する。

これにより、「太郎が次郎に車を借りる」と「太郎が次郎におはぎを食べられる」を同じような文型として分析できる。前者では、目的格名詞が表すもの(車)が、位置格名詞が表すもの(次郎)から主格名詞が表すもの(太郎)へ移動し、後者では目的語の「おはぎを食べ」が表す動作が、位置格名詞が表すもの(次郎)がこの動作の主語で、言い換えれば、この動作は次郎の所で起こり、言い換えれば、主格名詞が表すものに対して起こる。さらに、意味論の規則として、8)を加える。

(45)    8) VTVが補語として取る動詞(VP−>{VI VP} VTVの規則のVIかVPか)は、VTVの目的語である。

これらの規則により、たとえば、文(46)は(47)のように分析される。

(46)    子どもが雨に降られる。
(47)
TS
S                                                            TNS
NOMP         VP
                 LOCP       VP
                                VI    VTV

                                    SUFFER
kodomo ga     ame ni     hur    are                 ru

(47)と分析される文(46)は、(48)、つまり、(49)のような意味を持つと予測される。
(48)    Some child will suffer rain's falling from heaven.
(49)    It will rain, and some child will not like it or will be affected by that event.
「雨」は、「降r」が記述する動作の主語となり、その動作が子どもに及ぶ。また、「降r」は「Suffer」の目的語である。この予測は正しい。
    「被害」の意味を持たなくてもよい”受身”形態は、4つの統語規則群と2つの意味規則群によって予測される。規則70、72−74のように、「被害」の意味を持たなくてもよい”受身”形態は、PASSと分析される。
(50)    規則70: VTV_INTRANSTVZ -> PASS
(51a)    規則72: PASS -> rare
(51b)    規則73: PASS -> are
(51c)    規則74: PASS -> orare
これは、英語の受身形と同じである。規則70と19によって、”受身”形態「rare; are; orare」のPASSは、 動詞句を目的語として取り、位置格句を取る他動詞であり、かつ、その動詞句は、目的語か、あるいは、目的語の位置が空(VP_ACC/LOCGAP)であると分析される。
(52)    規則19: VP -> VP_ACC/LOCGAP VTV_INTRNSTVZ % VTV_INTRNSTVZ = e.g., PASS, Intransitivizing Transitive Verb with Verbal Complement
    VP_ACC/LOCGAPはさらに以下のように分析される。規則22(=(53a))「VP_ACC/LOCGAP -> VT」は、他動詞(VT)があったら、それだけで、間接目的語の空か、あるいは、目的語の空かを持つ動詞句(VP_ACC/LOCGAP)と分析されることを示す。
(53a)    規則22: VP_ACC/LOCGAP -> VT  % ACC/LOCGAP = OBJECT
ここで、実際にはACC/LOCGAPは動詞の目的語である。規則23(=(53b))「VP_ACC/LOCGAP−>ACCP VT」は、目的格句(ACCP)と他動詞(VT)があったら、それだけで、間接目的語の空か、あるいは、目的語の空かを持つ動詞句(VP_ACC/LOCGAP)と分析されることを示す。
(53b)    規則23: VP_ACC/LOCGAP -> ACCP VT % ACC/LOCGAP = LOCATIVE OF OBJECT
ここで、実際には、このACC/LOCGAPは間接目的語である。規則24(53c)「VP_ACC/LOCGAP -> ACCP_GAP VT」は、
空を持つ目的格句(ACCP_GAP)と他動詞(VT)がこの順に並んだら、それだけで、間接目的語の空かあるいは目的語の空かを持つ動詞句(VP_ACC/LOCGAP)と分析されることを示す。
(53c)    規則24: VP_ACC/LOCGAP -> ACCP_GAP VT % ACC/LOCGAP is identical to OBJECT
ここで、実際には、このACC/LOCGAPは動詞の目的語である。さらに、この動詞は、他の個体から疎外できない個体を目的語として持つ。これは、目的語がふたつあり、ひとつの目的語が他の個体から疎外できない場合は、その所属先の個体も目的語で表される。
    「被害」の意味を持たなくてもよい’受身’形態PASSを含む文を予測するための意味規則は以下である:
(54)    9)VTV_INTRNSTVZはそれをすぐ下位に含む動詞句の主語を、それが目的語として取る動詞句(VP_ACC/LOCGAP)のACC/LOCGAP、つまり、目的語か、あるいは、目的語の位置(=間接目的語)の空所と同一とする。
(55)    10)VP−> … VTV_INTRNSTVZにおいて、VTV_INTRNSTVZがPASSであれば、VP(動詞句)の意味は、VTV_INTRNSTVZが取る補語の動詞の意味と同一である。(つまり、PASS自体は意味を持たない。)
これらの規則により、たとえば、文(56)は(57)のように分析される。
(56)    おはぎが 子どもに 食べられる。
(57)
        TS
        S                                                                                                 TNS
      NOMP        VP
                      LOCP                VP
                                             VP_ACC/LOCGAP      VTV_INTRANSVZ
                                          VT                          PASS
ohagi ga        kodomo ni        tabe                          rare                          ru
文(56)の分析(57)においても、文(46)の分析と同じように、位置格句は、VP_ACC/LOCGAPの起点で、主語と解釈されるので、文(56)は、(57)のような意味を持つ。
(58)    Some child eats...
さらに、(54)意味規則9により、文(56)の主格句「おはぎ」は、「食べ」という動詞の目的語と解釈される。よって、意味規則10から、文(56)は、(59)の意味を持つと解釈される。
(59)    Some child eats ohagi.
この予測は正しい。
    なお、さらに、日本語言語理論7は、以下のとおりで、SUFFERの文と受身の文に空(GAP)がある文も分析できるように、規則25−27、40ー43、44−47が導入されている。これらの説明は割愛する。
(60)    %2003 JG7 Passive
規則1:initial symbol: TS
規則2:TS -> TS TNS
規則3:TS -> S TNS
規則4:S -> S PLTSTL
規則5:S -> NOMP VI
規則6:S -> NOMP VP
規則7:S -> PP S
規則8:S -> ADV S
規則9:S -> LOCP S
規則10:S -> TOPP S %TOPP = Topic PP or Topic ADV
規則11:S -> TOPP S_GAP %TOPP = NOUN + TOP; Topic Noun = GAP
規則12:VP -> ACCP VT
規則13:VP -> LOCP VP
規則14:VP -> PP VP
規則15:VP -> ADV VP
規則16:VP_GAP -> LOCP VP_GAP
規則17:VP_GAP -> PP VP_GAP
規則18:VP_GAP -> ADV VP_GAP
規則19:VP -> VP_ACC/LOCGAP VTV_INTRNSTVZ
% VTV_INTRNSTVZ = e.g., PASS, Intransitivizing Transitive Verb with Verbal Complement
規則20:VP -> VP VTV
% VTV = e.g., 'suffer', Transitive Verb with Verbal Complement
規則21:VP -> VI VTV
% VTV = e.g., 'suffer', Transitive Verb with Verbal Complement
規則22:VP_ACC/LOCGAP -> VT % ACC/LOCGAP = OBJECT
規則23:VP_ACC/LOCGAP -> ACCP VT % ACC/LOCGAP = LOCATIVE OF OBJECT
規則24:VP_ACC/LOCGAP -> ACCP_GAP VT
% ACC/LOCGAP is identical to OBJECT

規則25:VP_ACC/LOCGAP -> LOCP VP_ACC/LOCGAP
規則26:VP_ACC/LOCGAP -> PP VP_ACC/LOCGAP
規則27:VP_ACC/LOCGAP -> ADV VP_ACC/LOCGAP

規則28:VI -> LOCP VI
規則29:VI -> PP VI
規則30:VI -> ADV VI
規則31:VT -> LOCP VT
規則32:VT -> PP VT
規則33:VT -> ADV VT
規則34:S_GAP -> VI % GAP = Subject
規則35:S_GAP -> VP % GAP = Subject
規則36:S_GAP -> NOMP_GAP VI % GAP in S is GAP in NOMP
規則37:S_GAP -> NOMP_GAP VP % GAP in S is GAP in NOMP
規則38:S_GAP -> NOMP VP_GAP % GAP in S is GAP in VP
規則39:VP_GAP -> VT %GAP = Object
規則40:VP_GAP -> ACCP_GAP VT %GAP = possessor OBJECT for double objects
規則41:VP_GAP -> VI VTV % GAP = LOCP when the verb is VTV
規則42:VP_GAP -> VP VTV % GAP = LOCP when the verb is VTV
規則43:VP_GAP -> VP_GAP VTV % GAP is in the verbal complement of the VTV

規則44:VP_GAP -> VP_ACC/LOCGAP VTV_INTRANSTVZ
% GAP is LOCP when the verb is VTV_INTRNSTVZ
規則45:VP_GAP -> VP_ACC/LOCGAP_GAP VTV_INTRNSTVZ
% GAP is in the intransitivized verbal complement
規則46:VP_ACC/LOCGAP_GAP -> VT
%GAP = Object if ACC/LOCGAP = Locative of Object or Locative of Object if ACC/LOC GAP = Object

規則47:VP_ACC/LOCGAP_GAP -> ACCP_GAP VT
%GAP = Object [Possessor]

規則48:NOMP_GAP -> N_GAP NOM
% GAP in NOMP is GAP in Noun
規則49:ACCP_GAP -> N_GAP ACC
% GAP in ACCP is GAP in Noun
規則50:N_GAP -> IN % GAP = Posssessor
規則51:NOMP -> N NOM
規則52:ACCP -> N ACC
規則53:LOCP -> N LOC
規則54:PP -> N P
規則55:TOPP -> N TOP
規則56:TOPP -> PP TOP
規則57:TOPP -> ADV TOP
規則58:VI -> hukure
規則59:VI -> nobi
規則60:VI -> bakuhatus
規則61:VI -> hatarak
規則62:VI -> ir % is necessary
規則63:VI -> tutome
規則64:VI -> shuppatus
規則65:VI -> hair
規則66:VI -> kaer % return home
規則67:VI -> k % come
規則68:VI -> i % exist temporarily
規則69:VI -> ar % exist permanently
規則70:VTV_INTRNSTVZ -> PASS
% PASSive is an example of Intransitivizing Transitive Verb with Verbal Complement

規則71:VTV -> SUFFER
% 'suffer' is an example of Transitive Verb with Verbal Complement

規則72:PASS -> rare
規則73:PASS -> are
規則74:PASS -> orare

規則75:SUFFER -> rare
規則76:SUFFER -> are
規則77:SUFFER -> orare

規則79:VT -> tabe
規則80:VT -> kir % cut
規則81:VT -> ki % wear
規則82:VT -> ais
規則83:VT -> sir
規則84:VT -> benkyous
規則85:VT -> hasir
規則86:VT -> s
規則87:VT -> tukur
規則88:VT -> hum
規則89:VT -> nagur
規則90:VT -> atae
規則91:VT -> ok
規則92:VT -> turetek
規則93:VT -> ire
規則94:VT -> kae
規則95:TNS -> u
規則96:TNS -> ru
規則97:TNS -> ita
規則98:TNS -> ta
規則99:PLTSTL -> imas
規則100:PLTSTL -> mas
規則101:NOM -> ga
規則102:ACC -> wo
規則103:LOC -> ni
規則104:TOP -> wa
規則105:P -> de
規則106:P -> kara
規則107:ADV -> asita
規則108:N -> kodomo
規則109:N -> otoko
規則110:N -> okaasan
規則111:N -> tomodati
規則112:N -> ohagi
規則113:N -> keeki
規則114:N -> ga
規則115:N -> naihu
規則116:N -> huku
規則117:N -> sore %Pronoun
規則118:N -> heya %[location +]
規則119:N -> oosaka %[location +]
規則120:N -> asita
規則121:IN -> kaminoke %[inalienable +]
規則122:IN -> kuse
規則123:IN -> kao
規則124:IN -> ashi

・意味論5:
1)    主格の格形式は、その補語の名詞句(その他、後置詞句や非定形補文標識句など)の意味(=1項述語)の項位置を埋めて満たす個体が、その格句が修飾する(つまり、それといっしょに連結して文を作る)動詞の意味(=述語)の主語の項位置をも埋めて満たす。
2)    目的格の格形式は、その補語の名詞句(その他、後置詞句や非定形補文標識句など)の意味(=1項述語)の項位置を埋めて満たす個体が、その格句が修飾する(つまり、それといっしょに連結して動詞句を作る)動詞の意味(=述語)の目的語の項位置をも埋めて満たす。
3)    「に」は、a(=(1))か、b(=(2))か、c(=(25))かのどれか、ひとつの意味を持つ:
3a.    「に」句が修飾する述語(動詞の意味)に目的語の項がある場合:「に」名詞句は、修飾する動詞の記述する出来事において、その目的語が記述するものが存在する場所を記述する。
3b.    「に」句が修飾する述語(動詞の意味)に目的語の項がない場合:「に」名詞句は、修飾する動詞の記述する出来事において、主語が記述するものが存在する場所を記述する。
3c’.    「に」句が、ある特定の受動動詞「借りる」、「受ける」、「聞く」、「教わる」、「習う」、「もらう」、「賜る」、「いただく」、「(r)are/orare」を修飾する場合、「に」名詞句は、目的語が記述する動作が、「が」名詞句が記述する個体の方に、起こるその動作の主語を、あるいは、目的語が記述する個体が、「が」名詞句が記述する個体の方に動くその移動の起点を記述する。
4)    「で」名詞句は、修飾する動詞が記述する出来事が起こる場所を記述する。
5)    提題詞「は」の意味:
a.    提題詞「は」の補語が名詞のとき、提題名詞は、提題句が修飾する動詞の意味(述語)中の空所(GAP)を埋める。
b.    提題詞「は」の補語が後置詞句か、分類詞句か、定形か非定形の補文標識句か、動詞の現在分詞句かのとき、たとえば、提題後置詞句の真偽条件的な意味上の働きは、その後置詞句の真偽条件的な意味上の働きと同じである。
6)    空所(GAP): 文法規則(A ー>B (C))において、ある大きなカテゴリー(A)中の空所(GAP)は、その直属のカテゴリー(BかC)の空所(GAP)と一致する。
7) 本講義では、時制と丁寧形態が意味を持たないと、単純化のために仮定する。つまり、TNSの意味はゼロとして、時制節の意味は、それが取る時制節か時制のない節の意味と同一であると仮定する。時制のない文の意味は、PLTSTLがある文を取る場合は、その分の意味と同一であると仮定する。
8) VTVが補語として取る動詞は、VTVの目的語である。
9) VTV_INTRNSTVZ(動詞を目的語として取り、かつ、その目的語の動詞を自動詞化させる他動詞)は、それをすぐ下位に含む動詞句の主語を、それが目的語として取る動詞句(VP_ACC/LOCGAP)のACC/LOCGAP、つまり、目的語か、あるいは、目的語の位置(間接目的語)の空所と同一とする。

10) VP−> ... VTV_INTRNSTVZにおいて、VTV_INTRNSTVZがPASSであれば、VP(動詞句)の意味は、VTV_INTRNSTVZが取る補語の動詞の意味と同一である。(つまり、たとえば、PASS自体は意味を持たない。)
    ・語用論5: 1)提題詞「は」が名詞を取る場合、名詞に焦点(focus)がない。提題句の修飾する句や文のどこかに焦点(focus)があり、提題名詞は、その焦点に対する背景(background)、あるいは、背景の一部となる。提題名詞は文全体の提題(topic)と解釈され、英語では、たとえば、talking about ... と解釈されたり、提題名詞が音声上、非強勢されると解釈されよう。
2)提題詞「は」が後置詞句か、分類詞句か、定形か非定形の補文標識句か、動詞の現在分詞句かを取る場合、その補語である名詞(後置詞句の場合)、非定形あるいは定形の動詞句(定形か非定形の補文標識句の場合)、動詞の現在分詞句が焦点(focus)である。文全体の提題(topic)に焦点があり、‘Talking about [...]<sound focus>, ...’と解釈され、強い対比の意味がある。