(1) a. 花子:太郎がおはぎを作ります。もし、(1b)の発話者が偽証罪に問われたとしたら、それは「太郎がおはぎを作ります」が真でも、「太郎がおはぎを作る」が真でなかったからであっただろう。実際には、(1b)の発話者は偽証罪に問われない。(1a)−(1b)のように、「太郎がおはぎを作ります」が、ある世界で真であれば、「太郎がおはぎを作る」もその世界で真である。言い換えれば、「太郎がおはぎを作ります」が指す状況と同じもの、あるいは、それの部分集合を、「太郎がおはぎを作る」が指す。以上とは逆に、花子が(2a)中の文を発した場合に、それを聞いていた人が文(2b)を法廷で発話しても、その人は、偽証罪に問われない。
b. 太郎がおはぎを作ると 花子が 言いました。
(2) a. 花子:太郎がおはぎを作る。もし、(2b)の発話者が偽証罪に問われたとしたら、それは、「太郎がおはぎを作る」が真でも、「太郎がおはぎを作ります」が真でなかったからであっただろう。実際には、(2b)の発話者は偽証罪に問われない。(2a)−(2b)のように、「太郎がおはぎを作る」が、ある世界で真であれば、「太郎がおはぎを作ります」もその世界で真である。言い換えれば、「太郎がおはぎを作る」が指す状況と同じもの、あるいは、それの部分集合を、「太郎がおはぎを作ります」が指す。
b. 花子に よると、 太郎がおはぎを作ります。
(3) 文脈:発話者が独り言をいっている。聞き手がいないために、発話者は言語使用に対して丁寧であることを示す必要がない。(聞き手があっても、言語使用についてその人に丁寧であることを示す必要がないと話し手が考えるときは、たとえば、親しい友達や自分の子供と話す場合などのように、話し手は丁寧形態を文の最後につけないだろう。)
a. 発話:太郎が花を描く。
b. 発話:?太郎が花を描きます。
(4) a. 先生が花を描く。丁寧形態に対して、動詞の尊敬形「おV[prp]になr」は、主語が「先生」の場合は適切な文だが、主語が「僕」や「花」の場合は適切な文ではない。もしそれらが適切であるとするならば、発話者は主語が指す自分自身や植物の花に尊敬を表しているということになる。
b. 先生が花を描きます。
(5) a. 僕が花を描く。
b. 僕が花を描きます。
(6) a. 花が咲く。
b. 花が咲きます。
(7) a. 先生が花をお描きになる。
b. 先生が花をお描きになります。
(8) a. ?僕が花をお描きになる。
b. ?僕が花をお描きになります。
(9) a. ?花がお咲きになる。
b. ?花がお咲きになります。
このように、尊敬形は、発話者が、それがとる動詞の主語が指すものや人に対して尊敬を示していることを示す形態であり、一方、丁寧形態は、それがとる動詞の主語や目的語や間接目的語が指すものや人に示しているのではなく、かつ、誰に対しても尊敬を示しているのではなく、単に、言語使用について、丁寧であることを示しているだけである。
(10) a. 作ります。/tsukur-imas-u/ 'make [Verb Base]-Polite Style-Nonperfective'
b. 作りました。/tsukur-imas-ita/ 'make [Verb Base]-Polite Style-Perfective'
c. 作る。/tsukur-u/ 'make [Verb Base]-Nonperfective'
d. 作らない。/tsukur-anai/ 'make [Verb Base]-not'
e. 作った。[tsukutta] 古典語:作りた。/tsukur-ita/ 'make [Verb Base]-Perfective'
/tsukur-ita/が実際には[tsukutta]と音声化されるのは、/i/削除と/w/や/r/の/t/への逆同化現象による。「う」音節で終わるすべての動詞(たとえば、「会う」「思う」「言う」「食う」「払う」)は、基底では、子音wで終わる動詞基の動詞であると仮定すれば、次の音韻・音声上の仮定を使って、簡単に説明できる。日本語の音節ではwaとwoだけが文法的に正しい音節で、wi、wu、weは文法的に正しくなく、それぞれすべて「い」、「う」、「え」が換わりに使われると仮定する。
(11) a. 会います。/aw-imas-u/ -> [a-imas-u]なお、「問う」は例外で、「問うた」で、「問った」ではない。これは、まだ、古典文法の残骸が現代日本語にあると考えられる。佐賀県芦刈町の方言でも、「会う」「思う」「言う」「食う」「払う」の過去は、それぞれ、「会うた」「思うた」「言うた」「食うた」「払うた」である。
b. 会いました。/aw-imas-ita/ -> [a-imas-ita]
c. 会う。/aw-u/ -> [a-u]
d. 会わない。/aw-anai/
e. 会った。[atta] 古典語:会いた。/aw-ita/
(12) a. 食べます。/tabe-mas-u/ここで不規則動詞kとsは、非丁寧体の非過去では、非過去uにさらにruを加える。否定形態は、/{(a) (o) (i)}nai/で、動詞が不規則動詞k 'come' のときは、onaiで、動詞が不規則動詞s 'do' のときは、inaiである。
b. 食べました。/tabe-mas-ita/
c. 食べる。/tabe-ru/
d. 食べない。/tabe-nai/
e. 食べた。/tabe-ta/
(13) a. 勉強します。/benkyoo s-imas-u/
b. 勉強しました。/benkyoo s-imas-ita/
c. 勉強する。/benkyoo s-u-ru/
d. 勉強しない。/benkyoo s-inai/ (*sanai; *sonai)
e. 勉強した。/benkyoo s-ita/
(14) a. 連れて来ます。/tsurete k-imas-u/日本語学習には、「勉強しない」と言いたいところを「勉強さない」と言ったり、「つれて来(こ)ない」と言いたいところを「つれて来(き)ない」と言ったり、「話さない」と言いたいところを「話しない」と言ったりする間違いがよくある。
b. 連れて来ました。/tsurete k-imas-ita/
c. 連れて来る。/tsurete k-u-ru/
d. 連れて来ない。/tsurete k-onai/ (*tsurete kanai; *tsurete kinai)
e. 連れて来た。/tsurete k-ita/
〜〜〜 コラム 〜〜〜
How to Figure out the Type of a verb: By Using Five Facts
4.日本語言語理論#6:丁寧形態・動詞基・時制
日本語言語理論#6((15)に与えられてた文法)では、文・節(S)と、時制の付いた文・節(TS)とを分け、時制の付いた文・節(tense
sentence = TS)が、この文法によって文法的に正しい「文」と見なされるものとする(規則1)。時制のついていない文・節(S)と時制(tense
= TNS)とが列をなせば、それは時制のついた文・節(TS)である(規則3)。時制のついた文・節(TS)と時制(tense = TNS)とが列をなせば、これも時制のついた文・節(TS)である(規則2)。(規則2は、「愛す」や「愛す+る」、「来(く)」や「来+る」が時制のついた動詞となるときに使われる)。時制のついてない文(S)と丁寧形態(plain
style = PLTSTL)とが列をなせば、時制のついてない文(S)である(規則4)。時制(TNS)は、現在形(uかru)、過去形(itaかta)である(規則63、64、65、66)。丁寧形態(PLTSTL)は、imasかmasである(規則67、68)。「動詞」は、すべて対応する動詞基(verb
base)に換える(規則37−62)。意味論に、時制をこの講義では無視し、時制を持つ節(TS)の意味は、時制(TNS)の意味は何もなく、それが取る時制節か時制を持たない節の意味と同一であるとする。丁寧形態は、真偽条件上の意味を持たないので、意味を持たず、それが時制を持たない節(S)を取っている場合、全体の時制を持たない節の意味は、その時制が取る時制を持たない節の意味と同一であるとする。
(15) % JG6では、日本語言語理論#6がどのような予測を産むかを見てみよう。言語理論#6の統語論は単語の列(16)を時制のついた文(TS)として(17)のように分析する。
- initial symbol: TS
- TS -> TS TNS
- TS -> S TNS
- S -> S PLTSTL
- S -> NOMP VI
- S -> NOMP VP
- S -> PP S
- S -> ADV S
- S -> LOCP S
- S -> TOPP S %TOPP = Topic PP or Topic ADV
- S -> TOPP S_GAP %TOPP = NOUN + TOP; Topic Noun = GAP
- VP -> ACCP VT
- VP -> LOCP VP
- VP -> PP VP
- VP -> ADV VP
- VI -> LOCP VI
- VI -> PP VI
- VI -> ADV VI
- VT -> LOCP VT
- VT -> PP VT
- VT -> ADV VT
- S_GAP -> VI %GAP = Subject
- S_GAP -> VP %GAP = Subject
- S_GAP -> NOMP_GAP VI %GAP in S is GAP in NOMP
- S_GAP -> NOMP_GAP VP %GAP in S is GAP in NOMP
- S_GAP -> NOMP VP_GAP %GAP in S is GAP in VP
- NOMP_GAP -> N_GAP NOM %GAP in NOMP is GAP in Noun
- VP_GAP -> VT %GAP = Object
- N_GAP -> IN %IN = Inalienable Noun, GAP = Posssessor
- NOMP -> N NOM
- ACCP -> N ACC
- LOCP -> N LOC
- PP -> N P
- TOPP -> N TOP
- TOPP -> PP TOP
- TOPP -> ADV TOP
- VI -> hukure
- VI -> nobi
- VI -> bakuhatus
- VI -> hatarak
- VI -> ir % is necessary
- VI -> tutome
- VI -> shuppatus
- VI -> hair
- VI -> kaer % return home
- VI -> k % come
- VI -> i % exist temporarily
- VI -> ar % exist permanently
- VT -> tabe
- VT -> kir % cut
- VT -> ki % wear
- VT -> ais
- VT -> sir
- VT -> benkyous
- VT -> hasir
- VT -> s
- VT -> tukur
- VT -> atae
- VT -> ok
- VT -> turetek
- VT -> ire
- VT -> kae
- TNS -> u
- TNS -> ru
- TNS -> ita
- TNS -> ta
- PLTSTL -> imas
- PLTSTL -> mas
- NOM -> ga
- ACC -> wo
- LOC -> ni
- TOP -> wa
- P -> de
- P -> kara
- ADV -> asita
- N -> kodomo
- N -> otoko
- N -> okaasan
- N -> tomodati
- N -> ohagi
- N -> keeki
- N -> ga
- N -> naihu
- N -> sore %Pronoun
- N -> heya %[location +]
- N -> oosaka %[location +]
- N -> asita
- IN -> kaminoke %[inalienable +]
- IN -> kuse %[inalienable +]
- ・意味論5:
1) 主格の格形式は、その補語の名詞句(その他、後置詞句や非定形補文標識句など)の意味(=1項述語)の項位置を埋めて満たす個体が、その格句が修飾する(つまり、それといっしょに連結して文を作る)動詞の意味(=述語)の主語の項位置をも埋めて満たす。
2) 目的格の格形式は、その補語の名詞句(その他、後置詞句や非定形補文標識句など)の意味(=1項述語)の項位置を埋めて満たす個体が、その格句が修飾する(つまり、それといっしょに連結して動詞句を作る)動詞の意味(=述語)の目的語の項位置をも埋めて満たす。
3) 「に」は、a(=(1))か、b(=(2))か、c(=(25))かのどれか、ひとつの意味を持つ:
3a. 「に」句が修飾する述語(動詞の意味)に目的語の項がある場合:「に」名詞句は、修飾する動詞の記述する出来事において、その目的語が記述するものが存在する場所を記述する。
3b. 「に」句が修飾する述語(動詞の意味)に目的語の項がない場合:「に」名詞句は、修飾する動詞の記述する出来事において、主語が記述するものが存在する場所を記述する。
3c. 「に」句が、ある特定の受動動詞「借りる」、「受ける」、「聞く」、「教わる」、「習う」、「もらう」、「賜る」、「いただく」などを修飾する場合、「に」名詞句は、修飾する動詞の記述する出来事において、目的語で記述される動作が起こる点、あるいは目的語で記述される動作の結果が生じる点を記述する。
4) 「で」名詞句は、修飾する動詞が記述する出来事が起こる場所を記述する。
5) 提題詞「は」の意味:
a. 提題詞「は」の補語が名詞のとき、提題名詞は、提題句が修飾する動詞の意味(述語)中の空所(GAP)を埋める。
b. 提題詞「は」の補語が後置詞句か、分類詞句か、定形か非定形の補文標識句か、動詞の現在分詞句かのとき、たとえば、提題後置詞句の真偽条件的な意味上の働きは、その後置詞句の真偽条件的な意味上の働きと同じである。
6) 空所(GAP): 文法規則(A ー>B (C))において、ある大きなカテゴリー(A)中の空所(GAP)は、その直属のカテゴリー(BかC)の空所(GAP)と一致する。7)本講義では、時制と丁寧形態が意味を持たないと、単純化のために仮定する。つまり、TNSの意味はゼロとして、時制節の意味は、それが取る時制節か時制のない節の意味と同一であると仮定する。時制のない文の意味は、PLTSTLがある文を取る場合は、その文の意味と同一であると仮定する。・語用論5:
1)提題詞「は」が名詞を取る場合、名詞に焦点(focus)がない。提題句の修飾する句や文のどこかに焦点(focus)があり、提題名詞は、その焦点に対する背景(background)、あるいは、背景の一部となる。提題名詞は文全体の提題(topic)と解釈され、英語では、たとえば、talking about ... と解釈されたり、提題名詞が音声上、非強勢されると解釈されよう。
2)提題詞「は」が後置詞句か、分類詞句か、定形か非定形の補文標識句か、動詞の現在分詞句かを取る場合、その補語である名詞(後置詞句の場合)、非定形あるいは定形の動詞句(定形か非定形の補文標識句の場合)、動詞の現在分詞句が焦点(focus)である。文全体の提題(topic)に焦点があり、‘Talking about [...]<sound focus>, ...’と解釈され、強い対比の意味がある。
(16) 子どもが服を着ます
kodomo ga huku wo ki mas u
(17) TS日本語言語理論#6の統語論は単語の列(18)を時制のついた文(TS)として、(19)のように分析する。
S TNS
S PLTSTL
NOMP VP
N NOM ACCP VT
N ACC
kodomo ga huku wo ki mas u
(18) 子どもが服を着る
kodomo ga huku wo ki ru
(19) TSこれらの予測のように、日本語言語理論#6の統語論は、丁寧体の文(たとえば、(16))が文として見なされれば、それに対応する非丁寧体の文((18)が、(16)に対応する非丁寧体の文)を文と見なし、さらに、日本語文法は非丁寧体の文(たとえば、(18))が文として見なされれば、それに対応する丁寧体の文((16)が、(18)に対応する非丁寧体の文)を文と見なす。ふたつの単語列の違いは、時制を持たない文が、時制と連結する前に、丁寧形態/(i)mas/と連結するかどうかによって生じている。これらは、母国語話者の単語列に対する判断と矛盾しない。なお、日本語言語理論#6の統語論は、(16)に対する単語列/*kodomo ga huku wo ki-mas-ru/や、(18)に対する単語列/*kodomo ga huku wo ki-u/を時制のついた文と予測する。これらは、CCかVVのつながりを作るので、先述した形態音韻上の仮定によって、排除される。日本語言語理論#6の意味論・語用論は上の統語論によって分析された語列の意味を正しく予測する。意味論、語用論の予測は第5章と同様であり、丁寧形態や時制の意味も割愛している。
S TNS
NOMP VP
N NOM ACCP VT
N ACC
kodomo ga huku wo ki ru
(20) 子どもは服を切ります
kodomo wa huku wo kir imas u
(21) TS
S TNS
S PLTSTL
TOPP S_GAP
N TOP VP
ACCP VT
N ACC
kodomo wa huku wo kir imas u
(22) 子どもは服を切る
kodomo wa huku wo kir u
(23) TS
S TNS
TOPP S_GAP
N TOP VP
ACCP VT
N ACC
kodomo wa huku wo kir u
単語列(22)と単語列(20)との対立のように、提題句を含む非丁寧体の単語列が文であれば、それに対応する丁寧体の単語列も文であり、かつ、逆も真である。単語列(18)中の/ki
ru/と単語列(22)中の/kir u/とは異なる単語の列であるが、音声情報としては同じである。
ここで、(16)の音韻列と(24)の最後の部分の音韻列は、同じ/kimasu/である。日本語文法#6はこの音韻列を/ki mas u/と分析するか、/k
imas u/と分析するかによって、意味が異なると分析する。/ki mas u/と分析すると、この非丁寧形現在否定は/ki nai/となるので、この音韻列の意味は「着ます」である。/k
imas u/と分析すると、これは不規則動詞/k/となるので、この音韻列の意味は「来ます」である。
同様にして、日本語言語理論#6の統語論は、丁寧体の単語の列(24)を、時制のついた文(TS)として、(25)のように分析し、非丁寧体の単語の列(26)を、時制のついた文(TS)として、(27)のように分析する。
(24) 大阪にお母さんが来ます日本語言語理論#6の統語論では、単語列(26)は、時制の形態がふたつついたものと分析される。この分析は、古典日本語で、/ku/「来(く)」が非過去の動詞と見なされることを反映する一方で、/*kir-u-ru/「*切るる」や /*ki-ru-ru/「*着るる」をも非過去の動詞として文法的だと分析し、母語話者の判断とは異なる。
oosaka ni okaasan ga k imas u
(25) TS
S TNS
S PLTSTL
LOCP S
N LOC NOMP VI
N NOM
oosaka ni okaasan ga k imas u(26) 大阪にお母さんが来る
oosaka ni okaasan ga k u ru
(27) TS
TS TNS
S TNS
LOCP S
N LOC NOMP VI
N NOM
oosaka ni okaasan ga k u ru
ここで、(18)の音韻列と(22)の音韻列は、同じ/kodomowa#hukuwo#kiru/である。日本語言語理論#6の統語論は、この音韻列の最後の部分を/ki
ru/と分析するか、/kir u/と分析するかによって、意味が異なると予測する。/ki ru/と分析すると、この非丁寧形現在否定は/ki nai/となるので、この音韻列の意味は「着ない」である。/kir
u/と分析すると、この非丁寧形現在否定は/kir anai/となるので、この音韻列の意味は「切らない」である。なお、日本語学習者によくある間違いの「来(き)る」は、不規則動詞の動詞基は/k/
'come'とされており、/iru/は時制ではないし、/i/は時制でないことから、日本語言語理論#6の統語論は、その間違いを正しく間違いであると予測する。
漢字に「す;する」をつけた動詞群(たとえば、「愛す;愛する」、「略す;略する」、「制す;制する」、「食す;食する」)も、上述した「来る」と同じ分析によって、以下のように、説明される。これは、「す」で終わるこの動詞が古典語の装いがあり、「する」が現代語の対応動詞であることも説明する。
(28) 子どもがお母さんを愛す [古典語っぽい]つまり、「愛す」が子音終末の動詞基の動詞群(/U/動詞)に属すると分析され、これにより、その現在の否定形が「愛さない」であり、その丁寧体が「愛します」であることを正しく予測する。
(29) kodomo ga okaasan wo ais u
(30) 愛さない。日本語言語理論#6の統語論は、「来る」と同様に、「愛する」を以下のように分析する。
ais-anai
(30) 愛します。
ais-imas-u
(32) 子どもがお母さんを愛するこのようにして、TS -> TS TNS、TNS -> u、TNS -> ruという分析によって、「愛す」、「愛する」のふたつが現代語として使われていることを説明する。
(33) TS
TS TNS
S TNS
NOMP VP
N NOM ACCP VT
N ACC
kodomo ga okaasan wo ais u ru
(34) 見るしかし、この予測は、間違っている。よって、この分析(37)は受け入れられない。次に、uをTNSとしaisurを動詞基というようにaisur uと分析したとしよう。そうすると、「愛する」は「愛すr+u」で、たとえば、/U/動詞の「かかる」と同じように、その現在・否定形と、丁寧体は、それぞれ、(44)「愛すらない」と、(45)「愛すります」となると予測される。
mi-ru
(35) 見ない
mi-nai
(36) 見ます
mi-mas-u
(37) 愛する
aisu-ru
(38) *愛すない
*aisu-nai
(39) *愛すます
*aisu-mas-u
(40) かかるしかし、この予測は、間違っている。よって、この分析(37)は受け入れられない。さらに、この分析の場合は、「愛す」は別の動詞として分析されるであろう。このように、「愛する」の分析として、ruをTNSとしaisuを動詞基というようにaisu ruと分析したり、uをtnsとしaisurを動詞基というようにaisur uというようにする分析は、どちらも受け入れることができない。
kakar-u
(41) かからない
kakar-anai
(42) かかります
kakar-imas-u
(43) 愛する
aisur-u
(44) *愛すらない。
*aisur-anai
(45) *愛すります
*aisur-imas-u