第5章 提題詞
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1)提題詞「は」は名詞か副詞を取って句となる
提題詞「は」は、文(1b)に対した(1a)、および(2b)に対した(2a)のように、 名詞句か、あるいは、後置詞句を補語として取って句となる。 

(1) a.    こどもは、おはぎを作る。
       b.    こどもがおはぎを作る。
(2) a.    京都では、人がお寺に行く。
       b.    京都で人がお寺に行く。
文(1a)では、提題詞「は」は名詞句「こども」を補語として取って、提題句「こどもは」になっている。文(2a)では、提題詞「は」は後置詞句「京都で」を補語として取って、提題句「京都では」になっている。文(3)では、提題詞「は」が補語として取っているのは、(4)に分析が示されているように、「田中さんの子どもの」の一部である「こども」ではなく、名詞句「田中さんの子ども」全体である。
(3) 田中さんのこどもは、おはぎを作る。
(4)
         S
         提題句                                                    VP
        N                                        提題
        奪格句                    N
        N                奪格
        田中さん        の    こども    は            おはぎをつくる
このように、提題詞「は」が補語として取っているのは、「こども」ではなく、名詞句「田中さんの子ども」であると考えることにより、文(3)は、おはぎを作るのは子どもだというだけでなく、田中さんの子どもであるという事実を説明できる。
    文(5b)に対した文(5a)では、提題詞「は」は、「明日」という表現、つまり、副詞句か、あるいは、動詞を修飾する名詞句を補語として取って句となっている。同様に、文(6b)に対した文(6a)の「100人は」のように、提題詞「は」は、補語として、本数詞(Numeral)と単位を表す助数詞(Counter)とからなる副詞句あるいは、動詞を修飾する名詞)を取って、句となる。
(5) a.    明日は、学校へ行く。
       b.    明日、学校に行く。
(6) a.    カナダ人が100人は来た。
       b.    カナダ人が100人来た。
なお、後に提題詞「は」の語用論のところで触れるように、文(2a)における「京都では」と、文(5a)における「明日は」と、文(6a)における「100人は」は、副詞(あるいは、動詞を修飾する名詞)の補語(この場合は名詞)が提題となっている。さらに、その提題部分に、付加であることから来る音声上の焦点が与えられている。このため、この提題「は」は、‘Talking about [...]<sound focus>, ...’、俗に言う「対比」と解釈される傾向にある。
    文(7b)に対した文(7a)の「たけしさんが学校へ行くとは」では、提題詞「は」は、補語として、後置詞句とか、定形(時制を持つ)動詞を取る定形の補文標識句とか言われる「と」句を取って句となっている。
(7) a.    たけしさんが学校へ行くとは こどもが 思いませんでした。
      b.    たけしさんが学校へ行くと こどもが 思いませんでした。
分析(8)に示されているように、文・節「たけしさんが学校へ行く」と、定形の補文標識「と」(補文標識をcomplementizerといい、COMPと省略して使う、俗に言う、引用後置詞)とが連結して、句(COMPP)「たけしさんが学校へ行くと」となり、そして、その句「たけしさんが学校へ行くと」と、提題詞「は」とが連結して、提題句「たけしさんが学校へ行くとは」となっている。
(8)    提題句
        補文標識句                                     提題
        文                                補文標識
        たけしさんが学校へ行く   と               は            こどもが    思いませんでした。
なお、(2a)、(5a)、(6a)について触れたように、文(7a)における「たけしさんが学校へ行くとは」でも、定形補文標識句の節が提題となっている。
    その他、提題詞「は」は、補語として、非定形の(時制を持たない、あるいは、修飾する動詞の時制に一致する)動詞を取る非定形の補文標識句(complementizer [non-finite] phraseといい、nfcomppと省略する)とか言われる「て」句や、動詞の現在分詞形(たとえば、「本を読み」)を取って、句となる。
 
2)提題句は動詞を修飾する
提題句の現れている文(2a)(「京都では」を含む)、文(5a)(「明日は」を含む)、文(6a)(「100人は」を含む)、(7a)(「たけしさんが学校へ行くとは」を含む)のように、分析(9a)が成り立つ。
(9)    a.    提題句は、動詞を修飾する。
もし、「子ども、寝る」や「おはぎ、食べる」のように、格形式が後に続かない名詞だけでも動詞を修飾することができると仮定すれば、分析(9b)のように、提題句は、それが補語として取っているものと同じように、修飾すると言える。
(9)    b.    提題句は、それが取る補語が修飾することができるものを修飾する。
    分析(9a)も(9b)も、どちらも、発話(10)により、反証されるように見える。提題句「京都のおみやげは」は、名詞「生八橋」を修飾しているかのように見える。
(10)京都のおみやげは生八橋。
だが、この文における「生八橋」は、名詞ではない。その理由は以下のとおりである:文(10)における「生八橋」が名詞であると仮定しよう。そうすると、AがBを修飾すると全体の種類(文法のカテゴリー)はBのそれと一致する(日本語は主要辞のあるところは後ろである)ので、発話(10)の語列「京都のおみやげは生八橋」全体も名詞となるだろう。もし語列「京都のおみやげは生八橋」が名詞だったら、それは関係節が修飾できるはずである。ところが、文(11b)に対応した語列(11a)が、意図する意味を伝える文とならない。つまり、関係節「昨日、私たちが食べた」が語列「京都のおみやげは生八橋」を修飾できない。
(11)    a.    #昨日、私たちが食べた京都は生八橋を叔母さんが買った。  
            b.    昨日、私たちが食べた京都の生八橋を叔母さんが買った。
                   'The aunt bought namayatsuhashi in Kyoto that we ate yesterday.'
よって、発話(10)における「生八橋」は名詞ではないということになる。とすると、発話(10)では、名詞「生八橋」が述語的名詞+「である」と解釈されているかもしれない。発話(10)と(11)に関する議論から、分析(9)は、日常の発話(10)によって反証されるとは言えない。なお、この発話の分析は、これからの研究に、未決定のまま残そう。

3)提題句の意味上の働き
3.1)提題詞「は」の補語が名詞のとき

(12)    a.    提題名詞は、提題句が修飾する動詞の意味(述語)中の空所(GAP)を埋める。
            b.    空所(GAP)は、述語の項位置(主語か、あるいは、目的語かの位置)か、主語が関係名詞であれば、その主語の関係名詞の項位置にある。
            c.    関係名詞の例としては、「顔」、「頭」、「気持ち」、「こころ」、「におい」など個体の体の一部や精神の一部であり、それらは、その所有者・所属先なしでは言語上、表現されないものである。
            d.    提題名詞は、その提題句が修飾する動詞の意味(述語)のi)主語か(主格句が現れていなければ)、ii)目的語か(目的格句が現れていなければ)、あるいは、 iii)主語が関係名詞であれば、主語が記述する個体の所有者・所属先か(主格名詞の奪格名詞が現れていなければ)を記述する。
ここで、(12d)は、(12a)と(12b)と(12c)から導き出される。提題詞「は」の語用論上の働きは、後で述べる。
    文(13a)では、提題名詞「こども」は、提題句が修飾する動詞の意味(述語)の主語を記述する。「おはぎを作る」の動詞「作る」の意味make'(x)(y)の主語は、主格名詞がその動詞を修飾していないため、主語の位置に空所(GAP)があり、その空所を提代名詞「こども」が埋めている。
(13) a.    こどもは、おはぎを作る。    (=(1a))
         b.    こどもがおはぎを作る。    (=(1b))
         c.    ??こどもは、彼がおはぎを作る。
このように分析されて、文(13b)が真である世界では、文(13a)も真であることが予測される。さらに、このGAPを使った分析により、語列(13c)では、動詞「作る」の意味の述語make'(x)(y)の主語が現れており、その位置に空所がないため、提題名詞「こども」は動詞の意味make'(x)(y)の主語を記述しないと予測される。この予測は正しい。
    同様に、文(14a)では提題名詞「おはぎ」は、提題句が修飾する動詞「作る」の述語の目的語を記述し、文(15a)では提題名詞「こども」は、提題句が修飾する動詞「作る」の述語の主語「髪の毛」の記述する個体の所有者を記述している。 
(14) a.    おはぎは、こどもが作る。
         b.    こどもがおはぎを作る。
         c.    ??おはぎは、こどもがそれを作る。
(15) a.    こどもは、髪の毛がよく伸びる。
         b.    こどもの髪の毛がよく伸びる。
         c.    ??こどもは、彼の髪の毛がよく伸びる。
この分析により、文(14)ー(16)のbの文が真であれば、それぞれに対応して、文(14)ー(16)のaの文が真であることを予測できる。さらに、このGAPを使った分析は、語列(14c)では、動詞「作る」の意味の述語make'(x)(y)の目的語が現れており、その位置に空所がないため、提題名詞「こども」は、動詞の意味make'(x)(y)の目的語を記述しないと正しく予測される。語列(15c)についても、動詞「作る」の意味の述語make'(x)(y)の主語の所有者が現れており、その位置に空所がないため、提題名詞「こども」は、動詞の意味make'(x)(y)の主語の所有者・所属先を記述しないと正しく予測される。
    次に、分析(12a)ー(12c)は、語列(16a)、語列(17a)、語列(18a)がそれぞれ変に聞こえることを、以下のように、正しく予測する。母語話者は、文(16c)が真である世界では、文(16a)は真であるかどうかよく分からないという。さらに、語列(16b)と対比されたら、語列(16a)は少しはよく聞こえるという。つまり、母語話者の判断は、語列(16a)において、提題名詞「こども」は、「髪の毛」の所有者を記述しないとすることにより、この判断を説明できる。
(16) a.    ?こどもは、花子が髪の毛を切った。
         b.    ?大人は、次郎が髪の毛を切った。
         c.    花子がこどもの髪の毛を切った。
分析(12)はこれを以下のように正しく予測する。語列(16a)において動詞「切る」の意味cut'(x)(y)で、その主語は「花子」が記述し、その目的語は「髪の毛」が記述し、「花子」は関係名詞ではないから、どこの項にも穴(GAP)がない。よって、提題名詞「こども」は何も記述できない。ここで、「髪の毛」は関係名詞だが、分析(12c)の通り、目的語の場合は、提題名詞はその所有者・所属先を記述しない。語列(17a)と語列(18a)においては、「ともだち」は関係名詞ではないことが予測の要点である。
(17) a.    ?こどもは、ともだちがおはぎを作る。
         b.    ?大人は、妻がおはぎを作る。
         c.    こどものともだちがおはぎを作る。
(18) a.    ??こどもは、花子がともだちをなぐった。
         b.    ??大人は、次郎がともだちをなぐった。
         c.    花子がこどものともだちをなぐった。
ここで提題名詞が修飾する動詞句の中のある関係名詞の所有者・所属先を記述できる度合いは、提題句が修飾する動詞の主語、目的語の順で、難しい。
    提題名詞が修飾する動詞句の中のある関係名詞の所有者・所属先を記述できる度合いは、提題句が修飾する動詞の主語、目的語、さらに、付加の順で、難しい。母語話者は、文(19c)が真である世界では、文(19a)は真であるかどうかよく分からないという。さらに、語列(19b)と対比されても、語列(19a)はあまりよく聞こえないという。つまり、母語話者の判断は、語列(19a)において、提題名詞「こども」は、「髪の毛」の所有者を記述しないとすることにより、この判断を説明できる。
(19)   a.    ???こどもは、花子が飾りを髪の毛で作る。
         b.    ???大人は、次郎が飾りを髪の毛で作る。
         c.    花子が飾りを子どもの髪の毛で作る。
ここで、「髪の毛」は関係名詞だが、分析(12c)の通り、付加詞の場合は、提題名詞はその所有者・所属先を記述しない。
    提題詞「は」は語用論上の働き(=焦点に関係する談話上の働き)を持つ。提題詞「は」が名詞を取る場合、その名詞が文の提題(topic)と解釈され、提題詞「は」は、英語では、たとえば、talking about ... と解釈されよう。GAPを埋める提題名詞であって、かつ、談話上、トピックとなり易いものであって、かつ、音声上の焦点がなければ、提題句以外である提題句の修飾する動詞句のどこかに焦点がある。その際は、その提題名詞は、その焦点に対する背景、あるいは、背景の一部となる。(このようなことから、取り立ての助詞と呼ばれるのかもしれない)。

3.2)提題詞「は」の補語が、後置詞句・動詞を修飾する名詞・数詞・定形補文標識句・非定形補文標識句・動詞の現在分詞形句のとき

(20)    提題詞「は」の真偽条件上の意味の働きは、提題詞「は」が補語として取るものの意味上の働きと同一である。提題詞「は」の取るものが後置詞句か、分類詞句か、定形か非定形の補文標識句か、動詞の現在分詞句かの場合、たとえば、提題後置詞句の意味上の働きは、その後置詞句の意味上の働きと同じと解釈される。
次の文(21)−(26)のaの文の意味は、真偽条件上、それぞれ、文(21)−(26)のbの文の文法上の意味と同一である。
(21)   a.    京都では、たくさんの人がお寺に行く。
                'A lot of people go to temples in Kyoto.'
                Lit., 'Talking about Kyoto, a lot of people go to temples there.'
         b.    京都でたくさんの人がお寺に行く。
                'A lot of people go to temples in Kyoto.'
(22)   a.    明日は、学校へ行く。
                'I go to school tomorrow.'
                Lit., 'Talking about tomorrow, I go to school on that day.'
         b.    明日、学校に行く。
                'I go to school tomorrow.'
(23)   a.    カナダ人が100人は来た。
                    'One hundred Canadians came.'
                    Lit., 'Talking about 100, the number of Canadians came.'
          b.    カナダ人が100人来た。
                    'One hundred Canadians came.'
(24)   a.    たけしさんが学校へ行くとは私は思いませんでした。
                'I did not think that Takeshi would go to school.'
                Lit., 'Talking about the fact that Takeshi would go to school, I did not think that.'
          b.    たけしさんが学校へ行くと私は思いませんでした。
                'I did not think that Takeshi would go to school.'
(25)   a.    本を読んでは、喫茶店に行った。
                'After reading books, he went to the cafe.'
                Lit., 'Talking about reading books, he went to the cafe after doing that.'
          b.    本を読んで、喫茶店に行った。
                'After reading books, he went to the cafe.'
(26)   a.    本を読みは、しなかったけど、…
                'I did not read books, ....'
                Lit., 'Talking about reading books, I did not do that.'
          b.    本を読まなかったけど、…
                'I did not read books, ....'
    提題詞「は」は語用論上の働き(=焦点に関係する談話上の働き)を持つ。提題詞「は」が後置詞句を取る場合、後置詞を飛び越え、その名詞が話題である。提題詞「は」が定形か非定形の補文標識句を取る場合、定形か非定形の補文標識を飛び越え、その動詞句が話題である。提題詞「は」が分類詞句(「100人」など)を取る場合、分類詞を飛び越え、その数(名詞)が話題である。提題詞「は」が現在分詞句を取る場合、その現在分詞句が話題である。このように分析することで、たとえば、(27a)(=(21a))が 'Talking about in Kyoto, a lot of people go to temples there.' と解釈されるのではなく、 'Talking about Kyoto, a lot of people go to temples there.' と解釈されることを正しく予測できる。
(27)(=(21))   a.    京都では、たくさんの人がお寺に行く。
                Lit., 'Talking about Kyoto, a lot of people go to temples there.'
                Lit., #'Talking about in Kyoto, a lot of people go to temples there.'
(28)(=(22))   a.    明日は、学校へ行く。
                Lit., 'Talking about tomorrow, I go to school on that day.'
                Lit., #'Talking about on the day of tomorrow, I go to school.'
(29)(=(23))   a.    カナダ人が100人は来た。
                 Lit., 'Talking about 100, the number of Canadians came.'
                 Lit., #'Talking about 100 people, Canadians of that number came.'
(30)(=(24))   a.    たけしさんが学校へ行くとは私は思いませんでした。
                Lit., 'Talking about the fact that Takeshi would go to school, I did not think that.'
                Lit., #'Talking about that Takeshi would go to school, I did not think that.'
(31)(=(25))   a.    本を読んでは、喫茶店に行った。
                Lit., 'Talking about reading books, he went to the cafe after doing that.'
                Lit., #'Talking about after reading books, he went to the cafe.'
述語の主語でも目的語でもないもの、たとえば、位置格句や後置詞句や非定形補文標識句などか、あるいは、談話上、トピックとなりにくいものが提題となると、それ自体、音声上の焦点が与えられ、つまり、‘Talking about [...]<sound focus>, ...’と解釈される。(これが俗に言われる「対比」と考えられるかもしれない。)

4)文法発展5:提題詞「は」
提題詞「は」の議論から分かるように、ある語列に関する母語話者の判断の全部を予測するには、統語論と意味論だけでなく、語用論も必要となる。たとえば、「先月は、お父さんがおはぎを食べたけど、今月はお母さんがおはぎを食べる」という母語話者の判断は、後で見るように、文法(統語論)、意味論、語用論の複合体によって予測される。
(32)今月は、おかあさんが おはぎを 食べる。
    'The mother eats ohagi this month.'
ある母語話者の判断を文法で予測するのか、意味論で予測するのか、語用論で予測するのか、言語理論もさまざまである。この講義で使う理論はその一例で、理論における分業の方針は以下のとおりである。文法(統語論)と意味論の分析は、どんな文脈でもある言語の形式の持つ母語話者の判断を予測する。語用論は、言語の使用に関する母語話者、つまり、文脈の概念が欠かせない言語形式の意味や、文脈に依存して変わる意味・意図といったものを予測する。
    提題詞「は」を含む文を予測するのに、(53)中の日本語言語理論5を提案する。日本語言語理論5は、文法5(統語論5)、意味論5、語用論5からなる。日本語言語理論4になかった新しい規則はボールドで示されている。日本語文法5は、文法規則7を持ち、この規則によると、名詞を補語としてとる提題句(TOPP)と、出来事を描写するのに述語中の必須要素が抜けている文(a sentence with a gap と呼ばれ、S_GAPと省略する)との順列は、文である。
(33)    7)    S -> TOPP S_GAP %Topic Noun = GAP
意味規則5aによって、この文法規則7において、この空所(GAP)に、提題名詞が埋め込まれる。名詞と提題詞「は」(文法規則49)との順列は、提題句(TOPP)である(文法規則30)。
(34)    49)    TOP -> wa
(35)    30)    TOPP -> N TOP
文法規則1と意味規則1により、自動詞の述語の主語を主格名詞が記述するが、日本語文法5は、主格句(NOMP)がなくて自動詞(VI)だけで、それは、空所を持つ文(S_GAP)であるという文法規則18を持つ。
(36)    1)    S -> NOMP VI
(37)    18)    S_GAP -> VI %GAP = Subject
文法規則18では、その自動詞の述語の主語が空所(GAP)である。
    文法規則1と意味規則1に対応して、日本語文法5は、空所を持つ主格句(NOMP_GAP)と自動詞(VI)との順列は、空所を持つ文(S_GAP)である文法規則20を持つ。
(38)    20)    S_GAP -> NOMP_GAP VI %GAP in S is GAP in NOMP if the verb is VI
空所(GAP)の意味規則により、文の空所(GAP)が、自動詞を修飾する主格句の空所(GAP)と一致する。日本語文法5は、文法規則26に対応して、空所を持つ名詞(N_GAP)と主格(NOM)との順列は、空所を持つ名詞句(NOMP_GAP)であるという文法規則23を持つ。
(39)    26)    NOMP -> N NOM
(40)    23)    NOMP_GAP -> N_GAP NOM %GAP in NOMP is GAP in Noun
空所(GAP)の意味規則により、主格句の空所(GAP)が、主格の格形式の補語の名詞の空所(GAP)と一致する。日本語文法5は、「子どもの」というような奪格句(GENP)がなくて疎外不可名詞(inalienable noun)(IN)だけで、それは、空所を持つ名詞(N_GAP)であるという文法規則25を持つ。
(41)    25)    N_GAP -> IN %GAP = Posssessor
文法規則25では、その疎外不可名詞(inalienable noun)(IN)の所有者・所属先が空所(GAP)である。疎外不可名詞(IN)は、以下のような性質を持つ。
(42)    それ自体は、談話上、独立した個体を記述せず、かつ、その所有者・所属者が談話上、独立した個体を記述することのできる名詞(N)である。
日本語文法5では、疎外不可名詞(inalienable noun)(IN)として、「髪の毛」(文法規則65)と「癖」(文法規則66)がある。
(43)    65)    IN -> kaminoke %[inalienable +]
(44)    66)    IN -> kuse %[inalienable +]
「髪の毛」は、たとえば、それ自体で談話上、独立した個体を記述せず、ある人や人々や動物のという帰属先は談話上、独立した個体を記述できる。疎外不可名詞(inalienable noun)(IN)としては、 ほかに、「背」、「頭」、「誕生日」などがある。
    文法規則2の主格句と動詞句とが文をなす場合に空所がある場合は、以下のようになる。
(45)    2)    S -> NOMP VP
文の空所(GAP)が、文法規則19では、その動詞の主語に一致し、文法規則21では、主格句中の空所(NOMP_GAP)に一致し、文法規則22では、動詞句の空所(VP_GAP)に一致する。
(46)    19)    S_GAP -> VP %GAP = Subject
(47)    21)    S_GAP -> NOMP_GAP VP %GAP in S is GAP in NOMP if the verb is VP
(48)    22)    S_GAP -> NOMP VP_GAP %GAP in S is GAP in VP
空所を持つ主格句(NOMP_GAP)の空所(GAP)は、上の(40)ー(44)で記述されたように、文法規則23、25、65、66によって、疎外不可名詞(inalienable noun)(IN)の記述する個体の所有者か帰属先と解釈される。一方、文法規則24により、動詞句の空所(VP_GAP)は、その動詞(他動詞、VT)の目的語と解釈される。
(49)    24)    VP_GAP -> VT %GAP = Object
さらに、文法規則6、31、32は、たとえば、提題詞「は」が後置詞句を補語として取る場合を予測する。
(50)    6)    S -> TOPP S %TOPP = PP + Topic, ADV + Topic, or Noun + Topic
(51)    31)    TOPP -> PP TOP
(52)    32)    TOPP -> ADV TOP
(53)    日本語言語理論5
・文法5:
1)    S -> NOMP VI
2)    S -> NOMP VP
3)    S -> PP S
4)    S -> ADV S
5)    S -> LOCP S
6)    S -> TOPP S %TOPP = PP + Topic, ADV + Topic, or Noun + Topic
7)    S -> TOPP S_GAP %Topic Noun = GAP
8)    VP -> ACCP VT
9)    VP -> LOCP VP
10)    VP -> PP VP
11)    VP -> ADV VP
12)    VI -> LOCP VI
13)    VI -> PP VI
14)    VI -> ADV VI
15)    VT -> LOCP VT
16)    VT -> PP VT
17)    VT -> ADV VT
18)    S_GAP -> VI %GAP = Subject
19)    S_GAP -> VP %GAP = Subject
20)    S_GAP -> NOMP_GAP VI %GAP in S is GAP in NOMP if the verb is VI
21)    S_GAP -> NOMP_GAP VP %GAP in S is GAP in NOMP if the verb is VP
22)    S_GAP -> NOMP VP_GAP %GAP in S is GAP in VP
23)    NOMP_GAP -> N_GAP NOM %GAP in NOMP is GAP in Noun
24)    VP_GAP -> VT %GAP = Object
25)    N_GAP -> IN %GAP = Posssessor
26)    NOMP -> N NOM
27)    ACCP -> N ACC
28)    LOCP -> N LOC
29)    PP -> N P
30)    TOPP -> N TOP
31)    TOPP -> PP TOP
32)    TOPP -> ADV TOP
33)    VI -> hukureru
34)    VI -> bakuhatusuru
35)    VI -> iru
36)    VI -> aru
37)    VI -> tutomeru
38)    VI -> hataraku
39)    VI -> nobiru
40)    VT -> taberu
41)    VT -> oku
42)    VT -> ireru
43)    VT -> ataeru
44)    VT -> kiru
45)    VT -> tukuru
46)    NOM -> ga
47)    ACC -> wo
48)    LOC -> ni
49)    TOP -> wa
50)    P -> de
51)    P -> kara
52)    ADV -> asita
53)    N -> kodomo
54)    N -> otoko
55)    N -> okaasan
56)    N -> tomodati
57)    N -> ohagi
58)    N -> keeki
59)    N -> ga
60)    N -> naihu
61)    N -> sore %Pronoun
62)    N -> heya %[location +]
63)    N -> oosaka %[location +]
64)    N -> asita
65)    IN -> kaminoke %[inalienable +]
66)    IN -> kuse %[inalienable +]
・意味論5:
1)    主格の格形式は、その補語の名詞句(その他、後置詞句や非定形補文標識句など)の意味(=1項述語)の項位置を埋めて満たす個体が、その格句が修飾する(つまり、それといっしょに連結して文を作る)動詞の意味(=述語)の主語の項位置をも埋めて満たす。
2)    目的格の格形式は、その補語の名詞句(その他、後置詞句や非定形補文標識句など)の意味(=1項述語)の項位置を埋めて満たす個体が、その格句が修飾する(つまり、それといっしょに連結して動詞句を作る)動詞の意味(=述語)の目的語の項位置をも埋めて満たす。
3)    「に」は、a(=(1))か、b(=(2))か、c(=(25))かのどれか、ひとつの意味を持つ:
3a.    「に」句が修飾する述語(動詞の意味)に目的語の項がある場合:「に」名詞句は、修飾する動詞の記述する出来事において、その目的語が記述するものが存在する場所を記述する。
3b.    「に」句が修飾する述語(動詞の意味)に目的語の項がない場合:「に」名詞句は、修飾する動詞の記述する出来事において、主語が記述するものが存在する場所を記述する。
3c.    「に」句が、ある特定の受動動詞「借りる」、「受ける」、「聞く」、「教わる」、「習う」、「もらう」、「賜る」、「いただく」などを修飾する場合、「に」名詞句は、修飾する動詞の記述する出来事において、目的語で記述される動作が起こる点、あるいは目的語で記述される動作の結果が生じる点を記述する。
4)    「で」名詞句は、修飾する動詞が記述する出来事が起こる場所を記述する。
5)    提題詞「は」の意味:
a.    提題詞「は」の補語が名詞のとき、提題名詞は、提題句が修飾する動詞の意味(述語)中の空所(GAP)を埋める。
b.    提題詞「は」の補語が後置詞句か、分類詞句か、定形か非定形の補文標識句か、動詞の現在分詞句かのとき、たとえば、提題後置詞句の真偽条件的な意味上の働きは、その後置詞句の真偽条件的な意味上の働きと同じである。
6)    空所(GAP): 文法規則(A ー>B (C))において、ある大きなカテゴリー(A)中の空所(GAP)は、その直属のカテゴリー(BかC)の空所(GAP)と一致する。

・語用論5:

1)提題詞「は」が名詞を取る場合、名詞に焦点(focus)がない。提題句の修飾する句や文のどこかに焦点(focus)があり、提題名詞は、その焦点に対する背景(background)、あるいは、背景の一部となる。提題名詞は文全体の提題(topic)と解釈され、英語では、たとえば、talking about ... と解釈されたり、提題名詞が音声上、非強勢されると解釈されよう。
2)提題詞「は」が後置詞句か、分類詞句か、定形か非定形の補文標識句か、動詞の現在分詞句かを取る場合、その補語である名詞(後置詞句の場合)、非定形あるいは定形の動詞句(定形か非定形の補文標識句の場合)、動詞の現在分詞句が焦点(focus)である。文全体の提題(topic)に焦点があり、‘Talking about [...]<sound focus>, ...’と解釈され、強い対比の意味がある。

5)日本語言語理論5による予測
日本語言語理論5((53)で提案された理論)は、以下のように、名詞を取る提題詞を含む文の意味を正しく予測する。日本語文法5、統語論5は、語列(54)が文であると予測し、かつ、その語列を(55)のように分析する。

(54)    こどもは、髪の毛が伸びる。
(55)    S,7
            TOPP,30                    S_GAP,20
            N,53       TOP,49        NOMP_GAP                        VI,39
                                           N_GAP,25        NOM,46
                                            IN,65
            kodomo    wa            kaminoke            ga        nobiru
この統語分析を使って、意味論の分析により、提題名詞「こども」が、文にある空所を埋め、その動詞句にある空所を埋め、主格句にある空所を埋め、主格のすぐ直前にある名詞にある空所を埋め、疎外不可名詞「髪の毛」の所有者か所属先を記述すると予測する。こうして、この「髪の毛」の所有者は「こども」によって記述される個体である。ほかに、主格の格形式「が」の意味論などを使って、語列(54)は、(56)に与えられた意味を持つと予測される。
(56)    'Children's hair grows, where children is the topic of the utterance.
さらに、語用論の分析も一緒になって、この語列が(57)に与えられた意味を持つと予測される。
(57)    'Talking about the children, children's hair grows', where some part of the rest of the topic phrase receives focus.
この予測は、この語列に関する母語話者の判断と一致する。
    語列(32)(=(58))「kongetu wa okaasan ga ohagi wo taberu」は、日本語言語理論5によって、(59)のように分析され、文であると予測される。
(58)    kongetu wa okaasan ga ohagi wo taberu
(59)    S,6
        TOPP,31                   S,2
        PP,29       TOP,49  NOMP,26               VP,8
        N,63  P,50             N,53   NOM,46     ACCP,27        VT,40
                                                          N,57 ACC,47
        oosaka de    wa    kodomo    ga    ohagi    wo        taberu
この統語分析に加えて、意味論が以下のように仕事をする。意味規則(5b)により、統語論上(59)と分析された語列(58)が以下のように分析された語列(60)と文法上同じであると予測される。
(60)    S,6
        PP,29                   S,2
        N,63  P,50      NOMP,26               VP,8
                            N,53   NOM,46     ACCP,27        VT,40
                                                          N,57 ACC,47
        oosaka de    kodomo    ga    ohagi    wo        taberu
語列(60)は、語列(58)の提題詞「は」がなくて残りは同じ語列である。ここで、第1章ー3章における主格の格形式「が」、目的格の格形式「を」、さらに、後置詞「で」の分析によって、文(58)は、以下のような(60)に与えられる意味を持つ。
(61)    'Children eat ohagi in Osaka.'
さらに、語用論規則(5−2)により、意味(61)において提題(topic)となっているのは、後置詞「で」が補語としてとっている「大阪」であるので、当該の語列は、(62)、さらに、(63)の意味を持つと予測される。
(62)    'Children eat ohagi in [Osaka]<topic>'
(63)    'Talking about Osaka[sound focus], children eat ohagi there'