[1]関係節の統語論:
一方で、(1)と(2)が非文法的であり、他方で、(3)が文法的に正しいことから、関係節はどのような節でなければならないと考えるとよいか。
(1) *大阪に来るのは、おはぎを作って子どもである。なお、(1)に与えられているような意味を言いたくて、(1)のような語列を言う日本語学習者がいる。これは、英語では、現在分詞形や後置詞句が、動詞だけでなく、名詞をも修飾できるが、日本語では、現在分詞形や「て」形が動詞だけ修飾し、名詞を修飾できないことを理解していないためと考えられる。
'It is the child making ohagi that will come to Osaka.'
(2) *大阪に来るのは、おはぎを作り子どもである。
'It is the child making ohagi that will come to Osaka.'
(3) 大阪に来るのは、おはぎを作る子どもである。
'It is the child that makes ohagi will come to Osaka.'
[2]関係節と主要名詞の意味論: 文(4a)が発話された場合、それに関する質問(4b)に対して、(4c)や(4d)が答えられ、(4d)の方が(4c)より情報量が多く、かつ、(4d)は(4b)の質問に対して最大限の情報を伝えている。
(4) a. おはぎを作る子どもが大阪に来る。
b. 大阪に来るのは誰ですか。
c. 子どもです。
d. おはぎを作る子どもです。
関係節の働きがどうであると言うことによって、これらの事実を説明できるか。なお、子どもであるものの集合(7){x | child'(x)}、おはぎを作る者の集合(8){y | {x | make'(x)(y)} ^ {x | ohagi'(x)} =/= Null Set}を使って、明らかにしなさい。
(7) {x | child'(x)}
(8) {y | {x | make'(x)(y)} ^ {x | ohagi'(x)} =/= Null Set}
where the former argument slot in make'(x)(y) describes the makee, and the latter argument slot in make'(x)(y) describes the maker, ^ means the intersection (between or among the sets), and =/= means 'is not equivalent'
[3]関係節の統語・意味論1: (11a)から(14b)に関係する以下のような事実を説明するために、関係節をどう分析すれば、うまく説明できるであろうか。もし文(11a)が、ある世界で真であれば、その世界では、必ず文(11b)も真である。
(11a) おはぎを作る男が大阪に来る。
(11b) 男がおはぎを作る。
(12a) こどもが作るおはぎが大阪に来る。
(12b) こどもがおはぎを作る。
(13a) 髪がよく伸びる男が大阪に来る。
(13b) 男の髪がよく伸びる。
(14a) 花子が髪を切った男が大阪に来る。
(14b) 花子が男の髪を切った。
文(11b)は、文(11a)で関係節が連結している名詞を、関係節の動詞の主語として挿入した関係節を独立したひとつの文としている。(11a)と(11b)に関して上述されたような主張が、(12a)と(12b)、(13a)と(13b)、(14a)と(14b)のそれぞれについて成り立つ。
文(12b)は、文(12a)で関係節が連結している名詞を、関係節の動詞の目的語として挿入した関係節を独立したひとつの文としている。文(13b)は、文(13a)で関係節が連結している名詞を、関係節の動詞の主語の奪格句の名詞として挿入した関係節を独立したひとつの文としている。文(14b)は、文(14a)で関係節が連結している名詞を、関係節の動詞の目的語の奪格句の名詞として挿入した関係節を独立したひとつの文としている。
[4]関係節の統語・意味論2:議論[3]において、関係節を含む文(11a)においては関係節が連結している名詞はあたかも関係節の主語であるかのように理解されるということがわかった。次に、議論[3]に関連して、さらに、(11c)から(14c)に関係する以下のような事実を説明するために、関係節をどう分析すれば、うまく説明できるであろうか。文(11a)に対応して、(11c)のように、関係節中にそこにあるかのように理解される部分にその名詞の代名詞「その人」を挿入したら適切な文にならない。
(11a) おはぎを作る男が大阪に来る。
(11c) *その人がおはぎを作る男が大阪に来る。
(12a) こどもが作るおはぎが大阪に来る。
(12c) *こどもがそれを作るおはぎが大阪に来る。
(13a) 髪がよく伸びる男が大阪に来る。
(13c) *その人の髪がよく伸びる男が大阪に来る。
(14a) 花子が髪を切った男が大阪に来る。
(14c) *花子がその人の髪を切った男が大阪に来る。
(11a)と(11c)に関して上述された主張が、(12a)と(12c)、(13a)と(13c)、(14a)と(14c)のそれぞれについて成り立つ。
[5]関係節と後置詞句: [3]と[4]で得た結論と比べて、以下の事実を説明できるように、関係節をどう分析すればいいか考えなさい。もし文(19a)が、ある世界で真であれば、その世界では、必ず文(19b)も真である。文(19b)は、文(19a)で関係節が連結している名詞を、関係節の動詞の後置詞句「で」句の名詞として挿入した関係節を独立したひとつの文としている。
(19a) 花子が子どもの髪を切ったはさみがテーブルの上にある。文(19a)に対応して、(19c)のように、関係節中にそこにあるかのように理解される部分にその名詞の代名詞「それ」プラス後置詞を挿入したら文となる。
(19b) 花子が子どもの髪をそれで切った。
(19c) 花子が子どもの髪をそれで切ったはさみがテーブルの上にある。
(20a) 花子がおはぎを作るにおいは、昨日のと同じだった。
(21a) 花子が嗅いだにおいは、昨日のと同じだった。
(22a) 花子が倒れたにおいは、昨日のと同じだった。
(20b) *花子がそのにおいがおはぎを作る。
(20c) *花子がおはぎをそのにおいを作る。
(21b) 花子がそのにおいを嗅いだ。
(20d) *花子がおはぎをそのにおいで作る。なお、「におい」のような関係名詞に、「音」、「味」、「姿」、「絵」、「写真」などがある。知覚に関する現象学の以下のことが役立つかもしれない。People perceive one figure, corresponding to an event described by a sentence, against its background. In case of example (20a), the figure that the speaker perceived is a piece of smell of Hanako's making ohagi, against its background. If the background were totally homogenous with the figure, then people would not have perceived the figure against its background. さらに、「話」、「事件」、「事実」、「夢」、「気持ち」、「記憶」といった種類の名詞と、「におい」のような種類の名詞との違いを考えよう。
(22b) 花子がそのにおいで倒れた。
(23a) 男は、おはぎを作る。文(23a)に対応して、(23c)のように、(23a)で提題文にそこにあるかのように理解される部分にその名詞の代名詞「その人」を挿入したら適切な文とならない。
(23b) 男がおはぎを作る。
(11a)(=(15a)) おはぎを作る男が大阪に来る。
(11b) 男がおはぎを作る。
(23c) *男は、その人がおはぎを作る。(11a)、(11b)、(15c)に対応した(23a)ー(23c)に関して上述された主張が、(12a)、(12b)、(16c)に対応した(24a)ー(24c)、(13a)、(13b)、(17c)に対応した(24a)ー(24c)、(13a)、(13b)、(17c)に対応した(25a)ー(25c)、(14a)、(14b)、(18c)に対応した(26a)ー(26c)のそれぞれについて成り立つ。
(15c) *その人がおはぎを作る男が大阪に来る。
(24a) おはぎは、こどもが作る。
(24b) こどもがおはぎを作る。
(24c) *おはぎは、こどもがそれを作る。
(12a)(=(16a)) こどもが作るおはぎが大阪に来る。
(12b) こどもがおはぎを作る。
(16c) *こどもがそれを作るおはぎが大阪に来る。
(25a) 男は、髪がよく伸びる。
(25b) 男の髪がよく伸びる。
(25c) 男は、その人の髪がよく伸びる。
(13a)(=(17a)) 髪がよく伸びる男が大阪に来る。
(13b) 男の髪がよく伸びる。
(17c) *その人の髪がよく伸びる男が大阪に来る。
(26a) 男は、花子が髪を切った。
(26b) 花子が男の髪を切った。
(26c) 男は、花子がその人の髪を切った。
(14a)(=(18a)) 花子が髪を切った男が大阪に来る。
(14b) 花子が男の髪を切った。
(18c) *花子がその人の髪を切った男が大阪に来る。