第5章 提題詞「は」
議論
[1] 文法特徴1:語列(1)から(7b)を見て、提題詞「は」は、どのような種類の語を取って、句となるかを議論しよう。
(1) こども、おはぎを作る。
(2) 京都で、たくさんの人がお寺に行く。
(3) a.    明日、学校へ行く。
       b.    明日、学校へ行く。
(4) a.    カナダ人が100人来た。
       b.    カナダ人が100人来た。
(5) たけしさんが学校へ行くと私は思いませんでした。
(6) 本を読んで、喫茶店に行った。
(7) a.    本を読み、しなかったけど、…
          b.    本を読まなかったけど、…
[2] 文法特徴2:語列(1)から(7b)を観察して、提題句「・・・は」は、何を修飾するかを議論しよう。その議論で得た結論は、語列(8a)と語列(8b)に関する現象を説明できるかどうかを議論しよう。
(8)  a.    #昨日、食べた京都は生八橋を叔母さんが買った。
        b.    昨日、食べた京都の生八橋を叔母さんが買った。
        'The aunt bought namayatsuhashi in Kyoto that (we) ate yesterday.'
語列(8b)は、(8)中に英語で与えられた意味を表す文であるが、その語列中の「の」を「は」に入れ換えたという点だけ異なる語列(8a)は、その意味を表す文ではない。なお、関係節(例、(8)の「昨日、食べた」という語列)が修飾できるものは名詞だけである。

[3] 意味特徴1:
(9a)から(16d)に関連する以下のような事実を参考に、提題「は」が、意味上、どのような働きをしているか、詳しく言うと、提題名詞が、提題詞句が修飾する動詞の何を記述しているかを議論しよう。文(9b)が真である世界では、文(9a)も真である。語列(9c)は、「こども」と「彼」が同一のものを指示する場合、その意味をうまく伝えられない。
(9)    a.    こどもは、おはぎを作る。
         b.    こどもがおはぎを作る。
         c.    ??こどもは、彼がおはぎを作る。
                'Talking about a child, he makes ohagi, where ''the child'' and ''he'' are coreferential.'
語列(9a)から(9c)に関してあたれられたのと同様の事実が、語列(10a)から(10c)と語列(11a)から(11c)とのそれぞれについても観察される。
(10) a.    おはぎは、こどもが作る。
         b.    こどもがおはぎを作る。
         c.    ??おはぎは、こどもがそれを作る。
(11) a.    こどもは、髪の毛がよく伸びる。
         b.    こどもの髪の毛がよく伸びる。
         c.    ??こどもは、彼の髪の毛がよく伸びる。
    語列(12a)は文であるかもしれないが、母語話者にはその意味がよく理解されない。文(12c)が真であっても、語列(12a)が真であるかどうかは、よくわからない。語列(12a)は適切な文でないように聞こえるが、語列(12a)が、(12b)と対照されて発話されたと考えると、語列(12a)は適切な文であるとも言えるようだ。「こども」と「彼」が同一のものを指示する場合、語列(12d)は、その意味を伝えられるかもしれない。
(12) a.    ?こどもは、ともだちがおはぎを作る。
         b.    ?大人は、妻がおはぎを作る。
         c.    こどものともだちがおはぎを作る。
         d.    ?こどもは、彼のともだちがおはぎを作る。
語列(12a)から(12d)に関して与えられたのと同様の事実が、(13a)ー(13d)、(14a)ー(14d)、(15a)ー(15d)、(16a)ー(16d)にも観察される。
(13) a.    ?こどもは、花子が髪の毛を切った。
         b.    ?大人は、次郎が髪の毛を切った。
         c.    花子がこどもの髪の毛を切った。
         d.    ?こどもは、花子が彼の髪の毛を切った。
文(14c)が真であっても、語列(14a)が真であるかどうかわからないという不確かさは、(13a)と(12a)より、程度が高い。
(14) a.    ??こどもは、花子がともだちをなぐった。
         b.    ??大人は、次郎がともだちをなぐった。
         c.    花子がこどものともだちをなぐった。
         d.    こどもは、花子が彼のともだちをなぐった。
文(15c)が真であっても、語列(15a)が真であるかどうかわからないという不確かさと、文(16c)が真であっても、語列(16a)が真であるかどうかわからないという不確かさとは、(14a)と(13a)と(12a)より、程度が高い。
(15) a.    ???こどもは、花子が飾りを髪の毛で作る。
         b.    ???大人は、次郎が飾りを髪の毛で作る。
         c.    花子が飾りを子どもの髪の毛で作る。
         d.    太郎は、花子が飾りをその子の髪の毛で作る。
(16) a.    ???ナイフは、子どもがケーキを切る。
         b.    ???包丁は、大人がケーキを切る。
         c.    子どもがケーキをナイフで切る。
         d.    ナイフは、子どもがケーキをそれで切る。
[4] 意味特徴2:(9)から(16d)を観察して得られた結論が、(17a)ー(22a)についても言えるか。
(17) a.    京都では、たくさんの人がお寺に行く。
    'A lot of people go to temples in Kyoto.'
    Lit., 'Talking about Kyoto, a lot of people go to temples there (in that place).'
    Lit., #'Talking about in Kyoto, a lot of people go to temples there.'
         b.    京都でたくさんの人がお寺に行く。
(18) a.    明日は、学校へ行く。
         b.    明日、学校に行く。
(19) a.    カナダ人が100人は来た。
         b.    カナダ人が100人来た。
(20) a.    たけしさんが学校へ行くとは私は思いませんでした。
         b.    たけしさんが学校へ行くと私は思いませんでした。
(21) a.    本を読んでは、喫茶店に行った。
         b.    本を読んで、喫茶店に行った。
(22) a.    本を読みは、しなかったけど、…
         b.    本を読まなかったけど、…
さらに、(17a)から(22b)において、何が各文において提題であるか。

[5] 関連事項1(井口&井口 1994:122):The analyses of the topic particle and the nominative form and the accusative form are as follows:

(23)    Topic partcile /wa/ is interpreted as meaning 'talking about..., ', where the complement of 'talk about' serves as the topic of an utterance as a whole.
(24)    The complement of nominative form /ga/ and the complement of the accusative form /wo/ are non-topic

The analysis that question words are non-topic unless they are topic in echo questions together with the two analyses above explains (25a)-(25c) and (26a)-(26c).

(25) a.    誰眠りますか。
                'Who will sleep?'
         b.    ?誰眠りますか。
                '?Talking about who, he will sleep?'
         c.    誰眠り、誰起きていますか。
                'Talking about who, he will sleep, and talking about who, he will be awake?'
(26) a.    たけしさんが何食べますか。
                'What does Takeshi eat?'
         b.    ?たけしさんが何食べますか。
                'Talking about what, does Takeshi eats?'
         c.    たけしさんが何食べて、何食べませんか。
                'Talking about what, does Takeshi eat, and talking about what, does Takesh not eat?'

    The analysis that a topic for an utterance as a whole does not occur in an adjunct clause (= an adverbial clause that modifies a clause) together with the two analyses above explains (27a)-(27b) and (28a)-(28c).

(27) a.    父寝ているとき、たけしさんはテレビを見ていた。
         b.    ?父寝ているとき、たけしさんはテレビを見ていた。
(28) a.    父寝ているとき、テレビを見ていた。
         b.    ?父寝ているとき、テレビを見ていた。

[6] 関連事項2
:「も」’too; also’ や、「こそ」[focus] は提題「は」と似たような働きをする。「も」は、ふたつの機能を持っている。ひとつは also の意味で、もうひとつは「名詞+も」の場合、残りの文の中の文法上の項を記述する働きだ。
(29) たけしさんも、お寺に行く。
    ‘[Takeshi]FOCUS goes to the temple, too.’
    Lit., ‘Takeshi is another individual that has the property such that he or she goes to the temple in that place.’
(30) 京都でも、たくさんの人がお寺に行く。
    ‘A lot of people goes to temples in [Kyoto]FOCUS, too.’
    Lit., ‘Kyoto is another individual that has the property such that a lot of people went to temples in that place.’