第3章 位置格の格形式「に」
議論

議論I)位置格の格形式「に」と後置詞「で」との違い
Ia:「で」も、「に」も、どちらもそれがついている名詞句は場所を記述するが、その場所で、1)何が、2)どうするかというふたつの点から、「で」と「に」が統語・意味上、どのような働きをしているかを、(1)ー(6)、(7a)ー(12)を見て、考えよう。

(1) 部屋 子どもが いる。
(2) 学校 木が ある。
(3) 子どもが 机 おはぎを 入れる。
(4) 子どもが 植物園 おはぎを あげる。
(5) 台所 子どもが おはぎを 食べる。
(6) 台所 おはぎが ふくれる。
(7)       a.    子どもが 机 おはぎを 入れる。
            b.    子どもが 机 おはぎを 入れる。
(8)        a.    子どもが 植物園 おはぎを あげる。
             b.    子どもが 植物園 おはぎを あげる。
(9)        a.    その不動産屋は 北海道 土地を 買った。
            b.    その不動産屋は 北海道 土地を 買った。
(10)    a.    ここ 名前を 書いて ください。
            b.    ここ 名前を 書いて ください。
(11)    a.    ブランコが 学校 ある。
            b.    運動会が 学校 ある。
(12) 都会 飲み屋街 猫が いる。
Ib:議論1aで得た結論によって、似たような意味を持つ動詞「勤める」((13a)中)と「働く」((13b)中)とで、前者が「に」を取り、後者が「で」句を取る事実を説明しよう。同じことを(14a)中の動詞「住んでいる」と(14b)中の「暮らしている」も説明しよう。
(13)    a.    洋子は スーパー 勤める。
            b.    洋子は スーパー 働く。
(14)    a.    洋子は 北海道 住んでいる。
            b.    洋子は 北海道 暮らしている。
議論II)位置格の格形式「に」がある文では「から」の意味であるのはなぜか
議論1で得た結論は、文(15a)と文(15b)とが同じ真偽条件的意味を持ち、本を借りる先が「に」がついた名詞でも、「から」がついた名詞でも表し得るが、一方、文(16a)と文(16b)とは同じ真偽条件的意味を持たず、来る先を「から」がついた名詞は表し得るが、「に」がついた名詞が表し得ないことを説明できるか。できない場合は、どのような分析をすればいいだろうか。
(15)    a.    太郎が 次郎 本を 借りる。
            b.    太郎が 次郎から 本を 借りる。
(16)    a.    太郎が 大阪から 来る。
            b.    太郎が 大阪に 来る。
さらに、直前の議論で得た分析は、使役の文(17)で、「に」のついた名詞が、使役形態が取っている動詞「走る」の主語になることと、さらに、受身の文(18)で、「に」のついた名詞が、受身形態が取っている動詞「殴る」の主語になることを説明できるか。
(17)    太郎が 次郎 走らせる(hasir-aseru)
(18)    太郎が 次郎 殴られる(nagur-areru)


議論III)位置格格形式「に」が格形式であるかどうか
IIIa:(19a)から(21c)を見て、それぞれの文における「に」句が格句であるかどうかを議論しよう。

(19)    a.    kodomo ga ohagi wo inu ni ataeru
            b.    inu wa kodomo ga ohagi wo ataeru
            c.    inu ni wa kodomo ga ohagi wo ataeru
(20)    a.    カーペットを 居間 敷く。
            b..    居間 カーペットを 敷く。
            c.    居間には カーペットを 敷く。
(21)    a.    toshokan ni hon ga aru
            b.    toshokan wa hon ga aru
            c.    toshokan ni wa hon ga aru
IIIb:(22)から(26)を見て、それぞれの文における位置格形式「に」が格形式であるかどうかを議論しなさい。
(22)    a.    太郎が 父 頼る
            b.    父 太郎に 頼られる(tayor-areru
(23)    a.    toshokan ni hon ga aru
            b.   toshokan ga hon ga aru
(24)    a.    太郎が 父 会う
            b.    ?父 太郎に 会われる(aw-areru
(25)    a.    kodomo ga ohagi wo inu ni ataeru
            b.    inu ga ohagi wo atae-rareru
(26)    a.    太郎が 花子 電話を かける
            b.    花子 太郎に 電話を かけられる(kake-rareru